主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「お前は今夜百鬼夜行に出なくていい。その代り、朔を連れて行く」


後ろ髪引かれる思いで若葉から離れて百鬼夜行に出るために庭に降りようとした銀を呼び止めたのは主さまだ。

1か月近く離れ離れになり、ふさぎ込んで部屋から出なかった若葉の顔色が戻ったことも喜ばしかったし、銀が若葉を大切に思っていることも確認できたが――

だが、無表情の主さまは銀に拳を振り上げて、真っ白な頬を力任せに殴って庭に吹っ飛ばした。


「つ…っ、何をする、ひどいじゃないか」


「息吹の右手首が腫れているのは、お前が思い切り握ったからだろうが。息吹はお前の名を出さなかったが、俺にはわかる。…ふざけた真似をすると、もう1発殴るぞ」


「主さま駄目!銀さんごめんね、秘密にしてたのに、なんでかばれちゃった…」


あれから銀を追って幽玄町に戻ってきた息吹は、着物の袖で右手首の青痣を隠していたのだが、主さまにお茶を差し出そうとした時に見えたのか――敢え無くばれてしまって、ご丁寧に包帯でぐるぐる巻きにされていた。

銀としても自分のせいであるとわかっているのだが――唇は切れて血が滴り、左頬は一気に真っ赤に腫れ上がっていた。

驚いた若葉が駆け寄って銀を抱き起したが――周りに居た百鬼たちは“喧嘩だ、やれやれ!”と囃し立てて挑発する。

静かに見ていた朔は内心百鬼夜行に出ることを喜びながらも、それを無表情を装って綺麗に隠して庭に降りた。


「お父様、もう行きましょう。それに…若葉が寿命で死ぬまでの間、百鬼夜行には出なくていいと思います。銀が居なくても、俺がちゃんと百鬼を率いますから」


「…そうだな。…たかが数十年か…。百鬼を抜けたい、と言うならば、抜けてもいいと思っている。お前の代になって銀がそう言い出したら、引き留めずに放出しろ」


「はい。じゃあ行きましょう。お前たち、行くぞ!」


“おお!”と鬨の声が上がり、いつも掛け声など上げない主さまとはまた違う朔の掛け声に気分が盛り上がってきた百鬼たちが続々と空を駆け上がる。

若葉は息吹と同様皆に手を振りながら銀に肩を貸して起き上がらせると、縁側に座らせて台所に走って行った。


「銀さん痛かったでしょ、ごめんね」


「仕方ない。その青痣、数日は残るだろう。感情任せに力いっぱい握ってしまって申し訳なかった」


素直に頭を下げた銀のふかふかの両耳をもふっと両手で掴んだ息吹は、はぁはぁしながら耳を触りまくって笑顔で言ってのけた。


「これでちゃらにしてあげるっ」
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