主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
屋敷に残った銀は、若葉の手を片時も離さずに、若葉を困らせていた。

氷水に浸した布を何度も替えて銀の頬にあてていたのだが、片腕はふさがっているので看病しにくい。

だが不平を言わずにずっと傍に居るのは、こんな時間を銀と共に持ったのが久しぶりすぎるから。


「私たちがこんなに離れてる時なんてあった?」


「ないな。せめて半日程だったと思う。お前に“女の匂いがついている”と言われるのが嫌だったから、女遊びはしていないぞ、誉めてくれ」


「でもこれから再開するのなら同じでしょ。また匂いくっつけてきたら、次からは自分で着物を洗濯してね」


縁側からは雪男が。

大広間の火鉢の前では息吹と山姫がにやにやしてこちらを見ているのが癪だったので、若葉の手を引っ張って立たせると、笑っている息吹に宣言した。


「今夜は泊まらせてもらう。部屋をひとつ借りるからな」


「え!?い、いいけど…私たち、どこかで泊まった方がいい?それなら今すぐ…」


「勘違いするな。いつものように過ごすだけだ。若葉、行くぞ」


息吹たちに手を振った若葉と銀は大広間から出て空き室になっている部屋へ入ると、銀が取った行動は――押入れを開けて一組の布団を敷いただけだった。

いつもは1人で寝ている若葉はなんの躊躇もなく床の上にちょこんと座ると、銀は隣に座って若葉の頭を撫でた。


「今夜は一緒に寝よう。嫌か?」


「嫌じゃないけど…どうして?私いつも1人で寝てるから逆に違和感あるかも」


少し吊った若葉の瞳が困ったように垂れ、長い髪を頭の上で結っていた櫛を外すと、まっすぐで艶やかな黒髪がさらりと背中に零れた。

…何故か言いようもなく胸が高鳴った銀も困った顔をして耳をかいていると、若葉はいつものようにふかふかの尻尾に触れて感触を楽しんだ。


「ぎんちゃんの匂いが1番落ち着く。…ぎんちゃん…私がお嫁さんに行くっていう話…まだ怒ってる?」


「怒っているとも。そんなに俺から離れたいのかと思ってずっと悩んでいた。…そうなのか?」


若葉はきょとんとして、掛布団を捲って潜り込むと、銀を誘った。

銀はまたもや何故か躊躇しながらも、若葉の隣に潜り込んで恐る恐る手を伸ばして若葉の腰を抱いて引き寄せる。


「…お前…細いな」


「そう?ぎんちゃんあったかい」


うっとりと瞳を閉じた若葉の表情を色っぽく感じた銀は、せつない思いになりながら、若葉の顔を胸に押し付けた。
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