主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉は息を詰めて銀の腕に抱かれていた。

銀も、息を詰めて若葉を抱きしめていた。

元々会話の少ない2人だったのでそれは苦痛ではなかったが…若葉の冷えた脚を脚の間に挟んであたためてやっていた時、若葉がぎゅうっと抱き着いてきた。


…女を抱くことは日常茶飯事だったが…一夜を共にしたことは1度もない。

女と遊ぶ時は日中だったし、夜は百鬼夜行だし、明け方いそいそと家路については若葉の寝顔を見て少しだけ眠るのが日課だったのだ。

こうして添い寝することもここ何年かは全くなかったし、女の匂いがする若葉にあてられた銀は、若葉の首筋に顔を寄せてくんくんと匂いを嗅いだ。


「…ぎんちゃん鼻鳴ってる。私…匂うの?」


「ああ、匂うが…嫌な匂いじゃない。むしろいい匂いで…俺は好きだ」


それっきりまた会話が途絶え、銀の手はさらに強く若葉を抱きしめて、限りなく何気なく、お尻を撫でてみた。

やはり昔とは全然違う体つきで、さすがに若葉からどんと背中を拳で叩かれた。


「ぎんちゃんの助平。お尻触らないで」


「お前こそいつも俺の尻尾を触っているだろうが。助平なのはお互い様だ」


「ぎんちゃん…明日はお家に帰るでしょ?一緒に居れる?」


「…お前が丙に家に行くのなら、俺はその間女と遊ぶ。お前が家に居るのなら、俺も居る」


だんだん眠たくなってきた若葉はこくんと頷いて、銀の尻尾にさわさわと触れた。


「ぎんちゃんから女の人に匂いがするのはいや。ひのえちゃんがお家に来ればいいの?」


「それも許さない。とにかくお前はしばらく家に居ろ。俺もずっと居る」


理由はよくわからないながらもまた頷いた若葉がとうとう眠りに引き込まれていく。

銀は若葉の寝顔をじっと見つめて、若葉の人肌にうとうとしてしまって、同じようにすぐに眠りに落ちていった。


明け方主さまが戻ってきて、一緒に眠っている2人を見ると、小さく呟いた。


「結局は収まるべき場所に収まった…ということか?」


「これからなんじゃないのかな。丙のこともあるし…銀さんと若葉が恋心に気付いてる感じじゃなかったし…主さま、私たちが背中を押してあげようよ」


百鬼夜行から戻ってきた主さまを出迎えていた息吹は襖を閉めて部屋から遠ざかり、夫婦の部屋へ移動して大人しく寝ている赤子を腕に抱いた。


もうそろそろ朔にすべてを任せて隠居する日が訪れる。

それまでに銀と若葉の関係が変わればいいのにと思いながら、親子川の字になって眠りについた。

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