主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
翌朝若葉は息吹と一緒に朝餉を用意して、大所帯の主さま一家と共に食べた後、大人だけで縁側で熱いお茶を飲んだ。

その間銀は若葉の傍から離れず、昨晩は何もなかったと息吹たちもわかっていながらも、なんとなく直視できないでいた。


「銀、あの家は狭いし冬は寒い。もっと広い家を用意してやるから、引っ越せ」


「それはありがたいが…若葉はそれでいいか?」


「確かに寒いけど…でもあのお家には愛着があるし…ぎんちゃんがいいんなら、それでいいよ」


…傍から見るといちゃいちゃしているように見える2人に和んだ息吹は、黙っている朔の口に無理矢理団子を突っ込みながら、有無を言わさぬ笑顔で朔を凍り付かせた。


「朔ちゃん、お引越しを手伝ってあげてね。…どうしたの?いや?」


「!い、嫌じゃないです。…俺も手伝います。引っ越しはいつですか?」


「家はすでに用意してあるから引っ越しはいつでもいい。決まったら教えてくれ」


「主さまありがとうございます。お引越ししたら、遊びに来て下さいね」


若葉に抱き着かれた主さまは、銀の冷えた瞳を見て慌てて若葉を引き剥がすと、咳払いをして皆から見えないように息吹の手を握った。

息吹は気にもしていなかったが、主さまとしては息吹に嫌われることが何よりも怖い。

また朔も息吹にだけは反抗することもなければ従順で、未だに息吹にべったりなところもある。


「じゃあ俺たちは行く。夕方また降りてくる」


「何なら今日も来なくていい。しばらくは若葉の傍に居ろ」


一瞬きょとんとした顔をした銀は、耳と尻尾をぴょこぴょこ動かして若葉の手を取ると、屋敷を後にした。

この1か月の空白をどう埋めようか――どうしたら若葉は笑ってくれるのか?

若葉は相変わらずあまり表情が動くことはなく、離れている間もそれは変わらなかったようだが、時々笑ってくれると本当に嬉しくなる。

女は笑っている方が美しいし可愛いし、若葉が笑うとそれを強く感じる。


「しばらくの間は寺子屋に行かずに家に居ろ。引っ越しの用意をしたり掃除をしたり…俺も手伝う」


「うん。ぎんちゃん…新しいお家には女の人を連れ込まないでね。ぎんちゃんが女の人を連れ込んだら、私も朔ちゃんやひのえちゃんを連れ込むから」


「わかった。わかったから怒るな」


慌てた銀は、若葉の手を強く握って丘を上がり、小さな家に戻ると、ようやく2人きりになれてほっと肩の力を抜いた。
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