主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀の膝の上に乗せられた若葉は、小さな頃銀が時々一緒に風呂に入ってくれたのを思い出して、ゆっくりと背中を預けた。

気持ちよさそうに小さな息をついた若葉にまた眩暈を感じた銀の手は行き場を失って、両腕を広げて若葉に触れないようにすると、“一緒に風呂なんか入るんじゃなかった”とものすごく後悔をしていた。


「ぎんちゃんお風呂入った後一緒に蜜柑食べよ」


「ああ、わかったいいとも。お前…俺と離れていた間、こうして朔や丙と一緒に風呂に入ったんじゃないだろうな」


「してないよ、いけないことだってわかってるから」


「では何故俺とは一緒に入れるんだ?」


「ぎんちゃんは特別だから。ぎんちゃんこそいつもこうして女の人とお風呂に入ってるんでしょ。慣れてるからすぐにわかるんだから」


そう詰られたが、銀は若葉としかこうして風呂に入らない。

遊んでくれる女たちとはここまで心を許したこともなく、どう説明しようかと少し黙っていると、若葉が身体の向きを変えて向い合せになり、銀の目をくぎ付けにした。


「…入ってない。お前だけだ」


「……ぎんちゃんいつもふかふかの尻尾なのに、濡れるとすごく細いんだね。ぎんちゃんの身体もすごく細くて……私…もう上がるね」


急に言いようもなく恥ずかしくなった若葉は、無意識に手を伸ばして引き留めようとする銀の手を掻い潜って風呂場から脱出すると、真っ赤な顔で身体を拭き、急いで浴衣と羽織を着ると、火鉢の前で税座をした。

…なんだか銀と一緒に風呂に入ったことが、してはいけないことのような気がして――そして銀の目線や仕草にどきっとしたのも、さらに動揺を深める。

程なくすると銀も風呂から上がって若葉の隣に腰を下ろすと、2人で爆ぜる炎を見つめてかける言葉を失った。

こんな状態で添い寝などできるものか、と銀は思っていて、若葉はいつもと少し違う雰囲気の銀に戸惑いを感じていて、目が合うと互いに顔をぱっと逸らして意識しあっていることが露呈してしまった。


「…寒くはないか?お前はこの季節よく風邪を引くから心配なんだ」


「大丈夫だよ。私冷え症だから、一緒に寝てくれるのならあっためて」


また頭から湯気が出そうになった銀は、すでに敷かれている床に目を遣った後視線をさ迷わせながら頷き、若葉の手を握った。

さりげなく握ったつもりだったのだが――若葉の表情もまたどこか緊張していて、銀はさらに動揺してしまうと、耳が自然と垂れてしまった。
< 117 / 593 >

この作品をシェア

pagetop