主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
息吹が新調してくれた布団はあたたかく、先に布団に潜った若葉に続いた銀は、若葉が床からはみ出ないようにと身体を密着させて寝るしかなかった。

ほんのり甘い香りがして、ほんのりくらくらする香りが入り混じった若葉の香りは香しく、嗅覚の良い銀が何度も鼻を鳴らすので、若葉は銀の鼻をつまんで唇を尖らせた。


「ぎんちゃん匂わないで」


「いいじゃないか、良い香りがするんだ。…お前はまだ女になりたてだし、嫁にやらせるのはまだ早いと思っている。俺と離れたいというのなら…話は別だが」


「離れたいとは思ってないよ。でも私がお嫁さんに行ったらぎんちゃんが安心するんじゃないかな、とは思ってたけど」


暗闇の中人である若葉は銀がどんな表情をしているのかはまだ目が慣れずに見えていなかったが、銀は若葉の表情がしっかり見えていたし、首筋ばかりに目が行ってしまう自分自身にも気付いていた。


「お前が嫁に行ったら俺は呆けるかもしれないな。手塩にかけた娘が居なくなると、日常を希薄に感じてしまうかもしれない」


「娘…」


ぽつりと呟いた若葉がくしゃみをしたのでまたさらに身体を密着させた銀は、限りなくさりげなく、若葉の首筋に顔を寄せて唇を押し付けた。

…身体の奥底にまで響いてくる疼きと、頭の芯にまで響いてくる甘い香り――


今自分がどんな気持ちになっているのか…

娘と思って育ててきた女を襲おうとしているのだ、と気付いたが、手を出してしまえば何もかも終わるのだ、とわかっている。


「…娘でなければ一体何だというんだ?俺はお前にとって父だろう?」


「父?ぎんちゃんを父様と思ったことはないよ。ぎんちゃんはぎんちゃんだもん」


「なんだそれは。とにかくもう寝ろ」


「ぎんちゃんの息が首にかかるからくすぐったくて眠れないよ」


…普通の女なら甘えた声で一夜をねだってくるものだが…色恋沙汰に縁のなかった若葉は銀の両耳を軽く引っ張って首筋から顔を離れさせた後、瞳を閉じた。

たかが1か月…されど1か月。

その間に若葉がまたぐっと女っぽくなった気がして、半開きの唇に指で触れた。

とにかくどこかに触れていたい。

遊んでくれる女たちには持ち得なかった感情は、ゆっくり銀の身体に染み渡り、浸透していった。
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