主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉の体調は日に日に良くなり、ようやく数日後ようやく床から抜け出ることができると、丙の両親の前で正座をして深々と頭を下げた。


「あの…不束者ですが…」


「堅苦しいことはしなくていいのよ。うちは大きな家だけど全然形式にこだわらないし、畑の仕事だって丙が言ったように手伝わなくてもいいの。あまり気負わずに一緒に楽しく暮らしていきましょうね」


「はい…ありがとうございます」


ほっとしたようにふわっと笑った若葉に見惚れてしまった丙の脇を突いて我に返らせた母親は、若葉の手を取って笑いかけた。

若葉は息吹を母のように慕っていたが、息吹は歳を取らないので、いまいち実感が無い。

だが丙の母は年を重ねていくごとにちゃんと歳相応に老いていくので、これからは本当の母のように慕えるかもしれない――


やはり気がかりなのは…息吹のことだ。


「お姉ちゃん…泣いてた?」


「ん、泣いてた。朔様に縋って泣いてた。2人とも…すごく心配してたから、会ってやっても…」


「でも手紙に“もう会わない”って書いたの。私…これからはちゃんと人の社会で生きていきたい。お料理くらいしか満足にできないけど、ひのえちゃん…よろしくお願いします」


料理どころか、若葉は息吹に作法や掃除や料理など全て叩き込まれている。

本人はそれを普通と思っていたが、若葉の仕草が洗練されているのは――息吹の教育の賜物だ。

それを若葉に言えばまた沈んでしまうかもしれないので、黙っていることにした丙は、無言で白紙を若葉に差し出した。


「ひのえちゃん…これ…なに?」


「会わないって決めただろうけど、手紙くらい書いてやった方がいいと思う。ずっとお世話になった人なんだから、それくらいしたっていいだろ?」


「うん…そうだね。お姉ちゃんと朔ちゃんには書こうかな」


ようやく前向きな気持ちになってくれてほっとした丙は、机に筆や墨などを用意してその場を離れた。

若葉にはひとりになる時間も必要だ。

ひとりになって、現在の状況をゆっくりと把握しなければならない。


「銀さんは…今頃どうしてるんだろうな」


心にもないことを言って若葉を傷つけて、若葉を手放す羽目になってしまった銀――

銀はその頃…

若葉と暮らしていた小さな家で、身体を丸めて寂寥感に耐えていた。
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