主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀は若葉と丙が夫婦になることを認めた。

それからの銀は女遊びをすることもなくなり、至極真面目に百鬼夜行をこなし、新たな家ではなく小さな家に戻る。

息吹は居たたまれない思いになりながらも、そんな銀から目を離せずに、銀が屋敷にやって来ると、いつも隣に座って銀を慰めた。


「おやおや十六夜、私の愛娘がおかしなことに」


「…今だけだ。息吹は銀に同情しているだけだ」


「おやまた強気なことを。私の娘は獣の尻尾や耳に弱くてねえ。それに色男も大好きだ。銀はうってつけだな」


「…」


主さまをもやもやさせることを連発した晴明は、烏帽子を脱いで銀にそっと寄り添っている息吹の隣に腰かけた。

息吹の表情は鎮痛だが、銀の表情は…いつもと同じように飄々としている。

こんな表情を今日、しているのはおかしいのだ。


今日は…


「銀よ、今日は若葉が嫁ぐ日だ。話によれば近所を回った後身内で祝うらしい。息吹、父様が牛車を出してあげよう。その白無垢を若葉に譲るのだろう?」


「はい…。父様、傍に居てね。私絶対泣いちゃうから…」


「息吹、早く行け。俺も後で行く」


銀がぽんぽんと頭を撫でてくれたので、思わず涙腺が緩んだ息吹は綺麗に畳んだ白無垢を胸に抱きしめて腰を上げた。

ひとりで抱えるには無理があったのだが、朔が隣から手を伸ばして手伝ってくれたので、一緒に廊下を歩きながら肩を寄せ合った。


「朔ちゃん…若葉がお嫁さんに行っちゃうよ?」


「…見たいけど、いいんです。お母様がしっかり目に焼き付けてきて下さい。後でどんなだったか俺に教えて下さい。俺は妹や弟たちの面倒を見ていますから、ごゆっくり」


「朔ちゃん…」


幼馴染でいつも若葉と一緒に遊んでいた朔――

花嫁姿を見たくないはずがないのに、朔も色々耐えているのだろう。

笑みを浮かべてはいるが、いつもとはやはり少し違う表情だったので、牛車の前に先回りして見送ってくれる態の主さまの前に立って見上げた息吹は、主さまに鼻をつままれて笑われた。


「若葉に泣き顔を見せるな。晴れやかな日なんだから、笑顔で見送ってやれ」


「うん…うん…わかってるもんっ。じゃあみんな、行って来ます。百鬼夜行までには戻って来るから」


牛車が走り出し、それを見送った一行の中に居た雪男は、白い頬を指でかいて肩を竦めた。


「呆気ないな。赤ん坊の頃から面倒見たのに」


「…俺たちが気まぐれに育てただけのこと。これでいいんだ」


皆がそう思い込もうと努めた。
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