主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
正式に夫婦の契りを結ぶのは、今夜だ。
銀に想いを寄せながらも、そんな若葉に想いを寄せた丙は、若葉と一緒に楽しい思い出を沢山作って、いつか銀のことを忘れてもらうことを目標にしていた。
「あんなかっこいい男…そうそう簡単に忘れられるわけがないけど」
男の自分から見ても、銀は細くすらっとしていて背が高く、涼しげな美貌は幽玄町の女の間で評判だったし、有名だった。
妖でもいい、と銀を誘惑したという女も多く、そんな噂を耳にする度に、若葉を放っておいて一体何をしているんだ、と怒鳴りそうになったのも少なくない。
「だけど…今日からは、俺だけを見てもらわないと」
夫婦となるからには、毎日共に過ごして、いつか子供が生まれて、幸せに歳を取ってゆくことこそが、穏やかな日常。
若葉が今まで過ごしてきた“日常”は怒涛のようで、およそ人が“日常”と呼んでいるものではなかったはずだ。
「若葉…寝ちゃったとかやめてくれよな」
「…寝て…ないよ。ひのえちゃん…今日からひとつの布団で寝るの?」
どこか呆然としたような…強張った表情の若葉は、先程別れた時の姿勢のまま、正座をしていた。
少し吊った瞳は不安げに目尻が下がり、これからどうなるのか…どうするのか、と表情が如実に訴えている。
丙は緊張で固まっている若葉の隣に腰を下ろすと、年上の男として大人ぶった態度で若葉の手をきゅっと握った。
「怖い…んだろ?でも俺たち…夫婦になるのなら、絶対必要なことなんだ。いつか俺と若葉の間に子供が生まれて、この家を継いでもらって、悠々自適の生活をしよう。悪ささえしなければ、主さまや百鬼の連中が乗り込んでくることもない。…な?怖いことなんかしないから」
「…うん…。ひのえちゃん…私…不安ばっかりでごめんね。私…頑張るから」
緊張しながらも少しだけ口角を上げて笑った若葉にどきどきした丙は、行燈の炎に息を吹きかけて消すと、若葉を床に誘った。
丙もはじめての経験なのでこれからどうすればいいのか手探りな状態だったが、これ以上若葉を不安にさせないために余裕ぶって笑みを浮かべる。
すると若葉も手を引かれて床の上に座ったものの、膝の上に握り拳を作って動く気配がなかった。
「若葉……帯…外してもいいか…?」
「………」
返事はなく、これ以上待てなかった丙は、若葉の腕を強く引っ張って自分の胸に倒れ込ませると、ぎゅうっと抱きしめながらも帯に手をかけた。
――若葉の身体がびくりと引きつる。
覚悟なんか…全くできていなかった。
銀に想いを寄せながらも、そんな若葉に想いを寄せた丙は、若葉と一緒に楽しい思い出を沢山作って、いつか銀のことを忘れてもらうことを目標にしていた。
「あんなかっこいい男…そうそう簡単に忘れられるわけがないけど」
男の自分から見ても、銀は細くすらっとしていて背が高く、涼しげな美貌は幽玄町の女の間で評判だったし、有名だった。
妖でもいい、と銀を誘惑したという女も多く、そんな噂を耳にする度に、若葉を放っておいて一体何をしているんだ、と怒鳴りそうになったのも少なくない。
「だけど…今日からは、俺だけを見てもらわないと」
夫婦となるからには、毎日共に過ごして、いつか子供が生まれて、幸せに歳を取ってゆくことこそが、穏やかな日常。
若葉が今まで過ごしてきた“日常”は怒涛のようで、およそ人が“日常”と呼んでいるものではなかったはずだ。
「若葉…寝ちゃったとかやめてくれよな」
「…寝て…ないよ。ひのえちゃん…今日からひとつの布団で寝るの?」
どこか呆然としたような…強張った表情の若葉は、先程別れた時の姿勢のまま、正座をしていた。
少し吊った瞳は不安げに目尻が下がり、これからどうなるのか…どうするのか、と表情が如実に訴えている。
丙は緊張で固まっている若葉の隣に腰を下ろすと、年上の男として大人ぶった態度で若葉の手をきゅっと握った。
「怖い…んだろ?でも俺たち…夫婦になるのなら、絶対必要なことなんだ。いつか俺と若葉の間に子供が生まれて、この家を継いでもらって、悠々自適の生活をしよう。悪ささえしなければ、主さまや百鬼の連中が乗り込んでくることもない。…な?怖いことなんかしないから」
「…うん…。ひのえちゃん…私…不安ばっかりでごめんね。私…頑張るから」
緊張しながらも少しだけ口角を上げて笑った若葉にどきどきした丙は、行燈の炎に息を吹きかけて消すと、若葉を床に誘った。
丙もはじめての経験なのでこれからどうすればいいのか手探りな状態だったが、これ以上若葉を不安にさせないために余裕ぶって笑みを浮かべる。
すると若葉も手を引かれて床の上に座ったものの、膝の上に握り拳を作って動く気配がなかった。
「若葉……帯…外してもいいか…?」
「………」
返事はなく、これ以上待てなかった丙は、若葉の腕を強く引っ張って自分の胸に倒れ込ませると、ぎゅうっと抱きしめながらも帯に手をかけた。
――若葉の身体がびくりと引きつる。
覚悟なんか…全くできていなかった。