主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
その夜銀は、晴明と共に酒を飲んでいた。

本来ならばもう百鬼夜行に出ている時間なのに、どっかりと腰を据えたままものすごい速さで酒を飲んでいる。


「銀よ、百鬼夜行はどうした?十六夜に粛清されるぞ」


「さぼった。今夜位いいだろう?俺の…俺の大事な女が嫁いだんだ。酔い潰れでもしないと眠れない」


本来は真っ白な銀の頬は桜色に染まり、控えている式神に酒を用意させるように言うと、最近全くといっていいほど動かない耳と尻尾がぴょこんと動いた。


「息吹が嫁いだ夜…お前はどうしていた?」


「私か?そうだな…今のそなたのように、酔い潰れていた」


「だろう?だから俺を止めるな。あいつは今頃丙に………くそっ」


丙と自分自身に悪態をついて唇を噛み締める銀の盃に無言で酒を注いだ晴明は、同じことをしてしまう血の繋がりに苦笑して、庭のかがり火を見つめた。

…いずれこうなるだろうとは思っていたが、銀は思ったより若葉に惚れ込んでいる。

今まで散々女遊びを繰り返していたのは、すぐ傍に在る愛しい女の存在と想いを掻き消そうとしていたからだろう。

若葉は人だから、と自分自身に言い聞かせて、現実から目を逸らそうとしていた結果が今、銀を苦しめている。



「十六夜とてそなたの想いや行動は理解できるはずだ。今宵は許してもらえるだろう」


「…若葉と丙は…うまくいくだろうか?離縁なんかしたら、若葉の居場所がなくなる。その時は…十六夜かお前のところで引き取ってほしい。俺は…会いに行かない。百鬼を抜けて、どこか遠くへ行く」


「そなた…そこまでして……承知した。離縁などしたらまず十六夜が黙ってはいないだろうな。十六夜は幽玄町を管理する者として、住人に罰を与えることができる。さていかなる罰になるか…」


「若葉以外殺せ。殺してしまえ。一家惨殺だ。女一人幸せにできない男を選んだ若葉も馬鹿だ。………俺も…馬鹿だ」



だんだん酔いが回ってきたのか、耳も尻尾もだらりと下がり、ごろんと寝転んだ銀はすぐに寝息を立て始めた。

普段飄々としていながらも颯爽としている銀が、人間の女に狂わされて、駄目になってゆく。


「思えば十六夜もこのような感じだったな。全く私の周りは馬鹿ばかりだ」


愚痴をこぼしながらも、銀に布団をかけてやった晴明は、月を見上げて盃を傾けた。

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