主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「お姉ちゃん…よかったらまた遊びに来てね。あ、そうだ、畑で獲れた野菜を持って帰って」


腕に大根や人参などを沢山抱えた若葉は、風呂敷にそれらを包み込んで猫又の胴体に括りつけた。

猫又は大人しくされるがままになっていたが、大きな金色の瞳をぴかっと光らせると、長い尻尾で若葉の足首をくすぐる。


「一緒に戻って来るにゃ?朔様が心配してるにゃ」


「…猫又ちゃん、お姉ちゃんと一緒にまた遊びに来てね。次に来る時は猫じゃらしの木を用意して待ってるから」


息吹は途中何度も振り返って手を振りながら、屋敷を後にした。

そんな息吹を見送った後屋敷に戻った若葉が部屋に戻ると、丙が背を向けて庭を睨んでいた。

その背中は怒りに満ちているように見えて、声をかけるのを躊躇われた若葉は、少し離れた場所に正座をして丙が話しかけてくれるのを待つ。


「…」


「……」


「………息吹様とどんな話したんだ?」


「お姉ちゃんと?…大した話はしてないけど…朔ちゃんのこととかお姉ちゃんの子供たちのこととか話したよ」


「…それだけか?」


「え?どう、して…?なんでそんなこと聞くの…?」


気まずい雰囲気が流れた。

いつもは明るい丙はまだ振り返る気配はなく、頼る人が丙しか居ない若葉は、腰を上げて丙の隣に移動すると、やはり想像通り怒っている丙の横顔を見つめた。


「…銀さんのこと話したんだろ?今どうしてるって?」


「えっと…深酒をしてるって言ってた。でもひのえちゃん、私もう別にぎんちゃんのことなんか…」


「……俺ちょっと出かけて来る。若葉は俺を待たないで寝てていいから。ちょっと友達と酒でも飲んでくる」


遮るように言葉を被せて腰を上げた丙を見上げた若葉は、足早に部屋を出て行く丙に慌てた声をかけた。


「行ってらっしゃい。私…待ってるね」


「…だから待たないでいいって。じゃ、行って来る」


――その背中はやはり怒ったままで、玄関まで見送りに行こうと襖を開けて廊下に出たが…丙の姿はもうなかった。


「ひのえちゃん…なんで怒ったのかな…」


考えてもわからずに、部屋に戻った若葉はそれからずっと、丙を待ち続けた。


朝まで…ずっと。


丙は、朝になるまで帰って来なかった。
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