主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
丙が戻って来たのは、明け方になってからだった。
夜になって百鬼夜行に出会うと命を落としてしまうと言われているので、夜になるとすべての店が閉まり、人通りには人ひとり歩かなくなる。
なので、酒を飲むような店が開店しているはずがないし、夜に出かければ、夜が明けるまで外に出ずに家に閉じこもっているのが習わしのようになっていた。
確かに丙は顔が広く友人が多い。
だが…こんな風に屋敷を飛び出して行ったのははじめてだ。
くたびれた様子で戻って来た丙が部屋に入ってきた時、若葉は全く乱れていない床の上で置き物のように正座をしていた。
そんな若葉を見た丙は一瞬ぎくっとした表情を浮かべたが、若葉はそれに気付かず小さな息を吐いて、胸を撫で下ろした。
「よかった、ちゃんと帰って来た…」
「若葉…寝ずに起きてたのか?寝てていいってあれほど…」
「心配だったから。ひのちゃんご飯食べる?それとも眠たい?湯たんぽ持って来るから寝ててもいいよ、畑仕事は私が代わりにやっておくから」
「…俺は…なんてことを…」
「え?今なにか言った?」
丙の呟きがかすかに耳に届いたが、なんと言っているのかわからずに聞き返すと、手で額を押さえていた丙はなんとか作り笑いを浮かべて若葉の頭を撫でた。
若葉もまた大人しくじっとされるがままになっていたが…丙の様子がどこかおかしいので見つめていると、その視線から逃れるかのように目を逸らした丙は、首を振った。
「や、ちょっと寝たから大丈夫。心配かけたよな、ごめんな」
「うん、ちゃんと戻って来たからいいの。私お茶淹れてくるね。身体あたためてから畑に行こ」
部屋を出て行く姿を見送った丙は、その後力なく床に倒れ込んだ。
「俺……耐えられない…。待つって決めたのに…半年経った…。あとどの位待てばいいんだ…?1年?2年?……無理だ…」
若葉のことはとても愛しい。
愛しいけれど、仮初の夫婦生活は…思っていた以上に苦しい。
自分から言い出したことなのに、丙の心は折れかかっていた。
そして――間違いを侵した。
――それからというものの、丙は事あるごとに夜になると出かけるようになる。
若葉は丙が出かける度に朝まで眠らずに過ごすようになり…元々強くない身体はだんだん弱って病に臥せるようになった。
「ふむ、そろそろか」
そんな生活が3か月ほど続いた時――平安町のとある屋敷でそう呟いた男の姿が在った。
夜になって百鬼夜行に出会うと命を落としてしまうと言われているので、夜になるとすべての店が閉まり、人通りには人ひとり歩かなくなる。
なので、酒を飲むような店が開店しているはずがないし、夜に出かければ、夜が明けるまで外に出ずに家に閉じこもっているのが習わしのようになっていた。
確かに丙は顔が広く友人が多い。
だが…こんな風に屋敷を飛び出して行ったのははじめてだ。
くたびれた様子で戻って来た丙が部屋に入ってきた時、若葉は全く乱れていない床の上で置き物のように正座をしていた。
そんな若葉を見た丙は一瞬ぎくっとした表情を浮かべたが、若葉はそれに気付かず小さな息を吐いて、胸を撫で下ろした。
「よかった、ちゃんと帰って来た…」
「若葉…寝ずに起きてたのか?寝てていいってあれほど…」
「心配だったから。ひのちゃんご飯食べる?それとも眠たい?湯たんぽ持って来るから寝ててもいいよ、畑仕事は私が代わりにやっておくから」
「…俺は…なんてことを…」
「え?今なにか言った?」
丙の呟きがかすかに耳に届いたが、なんと言っているのかわからずに聞き返すと、手で額を押さえていた丙はなんとか作り笑いを浮かべて若葉の頭を撫でた。
若葉もまた大人しくじっとされるがままになっていたが…丙の様子がどこかおかしいので見つめていると、その視線から逃れるかのように目を逸らした丙は、首を振った。
「や、ちょっと寝たから大丈夫。心配かけたよな、ごめんな」
「うん、ちゃんと戻って来たからいいの。私お茶淹れてくるね。身体あたためてから畑に行こ」
部屋を出て行く姿を見送った丙は、その後力なく床に倒れ込んだ。
「俺……耐えられない…。待つって決めたのに…半年経った…。あとどの位待てばいいんだ…?1年?2年?……無理だ…」
若葉のことはとても愛しい。
愛しいけれど、仮初の夫婦生活は…思っていた以上に苦しい。
自分から言い出したことなのに、丙の心は折れかかっていた。
そして――間違いを侵した。
――それからというものの、丙は事あるごとに夜になると出かけるようになる。
若葉は丙が出かける度に朝まで眠らずに過ごすようになり…元々強くない身体はだんだん弱って病に臥せるようになった。
「ふむ、そろそろか」
そんな生活が3か月ほど続いた時――平安町のとある屋敷でそう呟いた男の姿が在った。