主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
明け方のまだ誰も歩いていない商店街をふらふら歩き、途方もなくさ迷った。
行くあてもなく、川沿いの土手に腰かけた若葉は、寒さで震える手を擦り合わせて息を吐きかけて温めると、霧が出て前の見えない川をしばらく見つめた後、ゆっくり草履を脱いだ。
「私…最初から要らない子だった…。ひのえちゃんの幸せの邪魔をしちゃ駄目。離縁よりも私が死んで死別した方がいいに決まってる…」
また激しく咳き込み、ごぼりと喉を鳴らして込み上げてきた血の塊を吐き出した若葉は、身を切られるような冷たさの川に脚を踏み入れる。
頭のてっぺんまで一気に身震いが駆け抜けたが、徐々に脚が痺れてきて冷たさも感じなくなってきた。
「ひのえちゃん…ごめんね。私が縋ってしまったせいでこんなことに…」
――丙に謝りながらも、脳裏に浮かんだのは…銀の笑顔。
少し意地悪く笑う独特の笑い方が好きで、小さな頃はよく抱っこしてあちこちに連れて行ってもらったことを胸に抱いて、幸せな気持ちで逝きたい。
「私、幸せだったよ。お姉ちゃん…主さま…雪ちゃん…ひのえちゃん………ぎんちゃん…」
冷水に胸まで浸かると、何故かあたたかく感じられた。
このまま陽が上がらないうちに沈んでしまえば、誰にも見つからずに死ねる――
そう願いながら頭まで浸かろうとした時…
「若葉っ!?若葉、やめろ!何をしてるんだ、死ぬつもりなのか!?やめてくれ、若葉っ!!」
幽玄町を駆けずり回ってようやく入水自殺しようとしていた若葉を見つけた丙は、土手に揃えて置いていた草履の傍の草にべっとりとついた血を見て、表情を歪めながら若葉を追って川に入った。
…若葉は振り返らない。
川の流れが邪魔をしてなかなか若葉に近付けないでいると、若葉が頭まで水に浸かり、丙は絶叫しながら手探りで水中で若葉の手を掴むと、引き寄せて無理矢理顔を上げさせた。
「水を吐け!ただえさえ身体が弱ってるのにこんなこと…っ、若葉!……若葉…?若葉!!!」
川から引き上げると、若葉はぐったりしたまま意識を失い、身体からは完全に力が抜けきっていた。
人工呼吸をして胸を手で何度も押して圧迫すると、若葉の手がぴくりと動いた直後、ごぼりと水を吐いて咳き込んだ。
寒さでがたがた震えながらも丙は若葉を抱き上げると、土手を這い上がって道沿いに出て幽玄町の最奥に目を遣る。
…ここからは自宅よりも主さまの屋敷の方が近い。
若葉を失いたくない。
不貞を働いた暁の結末だとわかっていても、丙はなんとか震える脚を叱咤して主さまの屋敷の方へ駆けた。
行くあてもなく、川沿いの土手に腰かけた若葉は、寒さで震える手を擦り合わせて息を吐きかけて温めると、霧が出て前の見えない川をしばらく見つめた後、ゆっくり草履を脱いだ。
「私…最初から要らない子だった…。ひのえちゃんの幸せの邪魔をしちゃ駄目。離縁よりも私が死んで死別した方がいいに決まってる…」
また激しく咳き込み、ごぼりと喉を鳴らして込み上げてきた血の塊を吐き出した若葉は、身を切られるような冷たさの川に脚を踏み入れる。
頭のてっぺんまで一気に身震いが駆け抜けたが、徐々に脚が痺れてきて冷たさも感じなくなってきた。
「ひのえちゃん…ごめんね。私が縋ってしまったせいでこんなことに…」
――丙に謝りながらも、脳裏に浮かんだのは…銀の笑顔。
少し意地悪く笑う独特の笑い方が好きで、小さな頃はよく抱っこしてあちこちに連れて行ってもらったことを胸に抱いて、幸せな気持ちで逝きたい。
「私、幸せだったよ。お姉ちゃん…主さま…雪ちゃん…ひのえちゃん………ぎんちゃん…」
冷水に胸まで浸かると、何故かあたたかく感じられた。
このまま陽が上がらないうちに沈んでしまえば、誰にも見つからずに死ねる――
そう願いながら頭まで浸かろうとした時…
「若葉っ!?若葉、やめろ!何をしてるんだ、死ぬつもりなのか!?やめてくれ、若葉っ!!」
幽玄町を駆けずり回ってようやく入水自殺しようとしていた若葉を見つけた丙は、土手に揃えて置いていた草履の傍の草にべっとりとついた血を見て、表情を歪めながら若葉を追って川に入った。
…若葉は振り返らない。
川の流れが邪魔をしてなかなか若葉に近付けないでいると、若葉が頭まで水に浸かり、丙は絶叫しながら手探りで水中で若葉の手を掴むと、引き寄せて無理矢理顔を上げさせた。
「水を吐け!ただえさえ身体が弱ってるのにこんなこと…っ、若葉!……若葉…?若葉!!!」
川から引き上げると、若葉はぐったりしたまま意識を失い、身体からは完全に力が抜けきっていた。
人工呼吸をして胸を手で何度も押して圧迫すると、若葉の手がぴくりと動いた直後、ごぼりと水を吐いて咳き込んだ。
寒さでがたがた震えながらも丙は若葉を抱き上げると、土手を這い上がって道沿いに出て幽玄町の最奥に目を遣る。
…ここからは自宅よりも主さまの屋敷の方が近い。
若葉を失いたくない。
不貞を働いた暁の結末だとわかっていても、丙はなんとか震える脚を叱咤して主さまの屋敷の方へ駆けた。