主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「十六夜、話がある」


早朝、百鬼夜行から帰って来たばかりの主さまの屋敷に来訪者が訪れた。

その声を聞いた息吹はすぐさま襖を開けて、大好きな父に駆け寄ると、どこか難しそうな表情をしている父…晴明を見上げた。


「父様…?どうしたの?母様を迎えに来たんじゃ…」


「迎えは陽が上ってから来る予定だったが…一刻をも争う故、参った。…十六夜」


いつになく真剣な晴明の表情を見た主さまは、草履を履いて庭に降りると、晴明に案内されるがままに池の前まで誘導された。

肩の冷えた息吹に羽織を脱いで着せてやった主さまは、晴明が池の水に向かって何かを唱えると、人差し指と中指を揃えて斜めにひゅっと振る。


すると、池の水に映ったのは…丙が知らない女の家を訪ね、家の中には抱っこ紐や産着などが沢山揃えられているのを見てとると、息吹の顔色が変わった。



「ちょ…え…?なにこれ…この人…赤ちゃんが?…え?まさか…丙との…?」


「…晴明…そういうことなのか?」


「ああ、そういうことだ。若葉は昨晩丙の後をつけてこの光景を目の当たりにした。そして早朝家を飛び出て、入水自殺を図った」


「え!?若葉が!?主さまどうしよう、若葉が死んじゃう!!」



顔色が真っ青になって取り乱した息吹が大声を上げると、雪男と山姫と朔が屋敷から飛び出て来る。

晴明は息吹を主さまに任せて山姫と雪男にてきぱきと指示を与えた。


「まだ間に合う。若葉を見つけた丙がこちらに向かっているところだ。山姫、熱い湯を沸かせ。朔はあるだけの火鉢をかき集めて部屋を暖めるのだ。私は薬を作る。雪男、材料をかき集めておくれ。私は銀に使いを出す」


屋敷が慌ただしくなり、息吹が取り乱している間に塀の外から何か妙な水の音がした。

息吹が主さまの腕を振り解いて玄関の方に回り込むと――


そこには身体の力がだらりと抜けた若葉を抱きかかえた全身ずぶ濡れの丙が寒さに身体を震わせながら立っていた。


若葉はぴくりとも動かず、息吹は込み上げてくる悲鳴を呑み込みながら駆け寄り、真っ白な息を吐きながら途切れ途切れの丙の声を聞いた。



「わ、か、ばを…たす、けて…」


「若葉!しっかりして!主さま、若葉を!…丙、あなたは身体を温めて!朔ちゃん、部屋に案内してあげてね!私は若葉をお風呂に入れてくるから!」


「…わかりました」



若葉の口元からは微かに白い息が上がり、まだ命の灯が消えていないことがわかった。

主さまと共に風呂場に駆け込んだ息吹は、強い口調で若葉に呼びかけた。


「若葉…お姉ちゃんが絶対助けてあげるからね!」
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