主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
主さまが風呂場から出て行き、身体に張り付いた着物を無理矢理脱がすのをやめた息吹は、その格好のまま浴槽の中に若葉を入れた。
相変わらず若葉は一言も発さずに瞳を閉じていたが、肩や顔に熱い湯をかけてやると、唇が少し開き、ほのかに顔色が戻った気がして、ほっとした。
「若葉…お姉ちゃんだよ、わかる?こんなに身体を冷やして…女の子なんだから痛めつけるようなことはやめて。…なんで…入水自殺なんか…」
思わず鼻を啜って涙ぐんでいると、若葉の唇から息が漏れた。
少しずつ身体の緊張が解れて、瞼がぴくぴくと震える。
息も忘れるほどにじっと見つめていると、若葉の意識が戻り、確かに息吹の姿を捉えて息を吐いた。
「……おねえ、ちゃん…」
「気が付いた?よかった…。若葉…酷い目に遭ったね。自殺なんて考えちゃ駄目。あなたが悪いんじゃないの。丙が悪いんだから」
ぼんやりとした表情の若葉の着物を脱がせた息吹は、自らも着物を脱いで浴槽に入ると、ぱりぱりに凍った若葉の髪を丁寧に解して洗ってやった。
30分も浸かっているとようやく顔色が戻ったが、若葉はまた吸い込まれるようにして瞳を閉じてしまった。
身体の力が抜けきった若葉を抱えるのには息吹の細腕では耐えられず、大声で主さまを呼んで抱えてもらうと、主さまもやや安堵した表情を浮かべて客間に向かう。
「先ほど銀のところに猫又を使いに出した。程なくここへやって来るだろう」
「そっか、よかった…。…丙はどうしてる?」
「朔が傍に居る。口を開けば若葉の安否を気にしている。あの男…銀に殺されるぞ」
今頃銀が血相を変えて家を飛び出していることだろう。
息吹はそれを信じて丙が居る部屋ではなくその隣の部屋に若葉を連れて行くと、丙の居る部屋を通り過ぎた時にその姿を見つけた丙がすぐさま立ち上がって駆け寄ろうとしたが、朔が立ち塞がった。
「やめろ。もう若葉に近付くな」
「そんな…だって若葉は俺の…っ」
「俺の…なんだ?妻とでも言うつもりか?よそに女と子を作っておきながら旦那面をするつもりなのか?笑わせるな」
「っ!俺のこと…知って…?」
「私だよ。私がそなたと若葉を式神を使って見守っていた。若葉を悲しませるようなことがあれば、私の愛娘が悲しむからな」
どこまでも娘至上主義の晴明が若葉たちに見張りをつけていたことに主さまは苦笑せざるを得なかったが、そのおかげで迅速な対処ができた。
息を呑んで立ち尽くした丙は、隣室に連れて行かれた若葉を見つめたが――若葉は瞳を開けることはなかった。
相変わらず若葉は一言も発さずに瞳を閉じていたが、肩や顔に熱い湯をかけてやると、唇が少し開き、ほのかに顔色が戻った気がして、ほっとした。
「若葉…お姉ちゃんだよ、わかる?こんなに身体を冷やして…女の子なんだから痛めつけるようなことはやめて。…なんで…入水自殺なんか…」
思わず鼻を啜って涙ぐんでいると、若葉の唇から息が漏れた。
少しずつ身体の緊張が解れて、瞼がぴくぴくと震える。
息も忘れるほどにじっと見つめていると、若葉の意識が戻り、確かに息吹の姿を捉えて息を吐いた。
「……おねえ、ちゃん…」
「気が付いた?よかった…。若葉…酷い目に遭ったね。自殺なんて考えちゃ駄目。あなたが悪いんじゃないの。丙が悪いんだから」
ぼんやりとした表情の若葉の着物を脱がせた息吹は、自らも着物を脱いで浴槽に入ると、ぱりぱりに凍った若葉の髪を丁寧に解して洗ってやった。
30分も浸かっているとようやく顔色が戻ったが、若葉はまた吸い込まれるようにして瞳を閉じてしまった。
身体の力が抜けきった若葉を抱えるのには息吹の細腕では耐えられず、大声で主さまを呼んで抱えてもらうと、主さまもやや安堵した表情を浮かべて客間に向かう。
「先ほど銀のところに猫又を使いに出した。程なくここへやって来るだろう」
「そっか、よかった…。…丙はどうしてる?」
「朔が傍に居る。口を開けば若葉の安否を気にしている。あの男…銀に殺されるぞ」
今頃銀が血相を変えて家を飛び出していることだろう。
息吹はそれを信じて丙が居る部屋ではなくその隣の部屋に若葉を連れて行くと、丙の居る部屋を通り過ぎた時にその姿を見つけた丙がすぐさま立ち上がって駆け寄ろうとしたが、朔が立ち塞がった。
「やめろ。もう若葉に近付くな」
「そんな…だって若葉は俺の…っ」
「俺の…なんだ?妻とでも言うつもりか?よそに女と子を作っておきながら旦那面をするつもりなのか?笑わせるな」
「っ!俺のこと…知って…?」
「私だよ。私がそなたと若葉を式神を使って見守っていた。若葉を悲しませるようなことがあれば、私の愛娘が悲しむからな」
どこまでも娘至上主義の晴明が若葉たちに見張りをつけていたことに主さまは苦笑せざるを得なかったが、そのおかげで迅速な対処ができた。
息を呑んで立ち尽くした丙は、隣室に連れて行かれた若葉を見つめたが――若葉は瞳を開けることはなかった。