主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉はいつまで経っても目覚めなかった。

その間銀は手を繋いだまま片時も離れず、心配した息吹が何度かお茶を運んできたり若葉の様子を見に来たが、銀は若葉から瞳を逸らさずに、見つめ続ける。

…なんだか手は荒れているし、顔色は少し良いとはいえ、青白くて一緒に暮らしていた時よりも痩せて頼りなく見えた。


「…お前は…幸せを掴みたかっただけなのにな。俺ができないことを丙に与えてもらおうと思って…。俺とお前は2人共間違えてしまったんだ。…間違えてしまったんだ…」


「………ん…」


声が漏れたので、思わず握った手に力を込めると、若葉の瞳がゆっくり開いた。

表情は虚ろだったが、身を乗り出して顔を覗き込んでいる銀に気付くと、頬に手を伸ばそうとして、指に巻かれていた包帯を見つめて息を吐いた。



「私……失敗したのかな…。それともぎんちゃんに会えるなんて…ここは…天国…?」


「若葉…ここは十六夜の屋敷だ。お前は入水自殺を図ろうとして……いや、もういい。どこか痛くはないか?食べたいものは?飲みたいものは?」


「ぎんちゃん…本物の…ぎんちゃん…?ずっと…ずっと会いたかったぎんちゃん…?」



ふいに涙が込み上げて唇を噛み締めると、若葉は銀の長い尻尾に触れてぎゅっと握りしめながら、また瞳を閉じた。

慌てた銀が若葉の両頬を包み込んで顔を覗き込む。

あまりにも顔を近づけすぎたせいで唇が触れ合いそうになると、また若葉が瞳を開いて、自ら顔を寄せて銀と唇を重ねた。



「わ、かば…」


「ぎんちゃん…好き。私のこと娘としか思ってなくても、ずっとぎんちゃんのことが好き…」



愛の告白を受けて信じられないといった表情で銀が瞳を見開くと、若葉は痛む指先を伸ばして銀の両耳を触り――すう、と涙を零した。


若葉がはじめて涙を流した瞬間だった。



「…俺もだ…。心にもないことを言ってお前を1度は失ったが、もう離さない。離したくない…。俺もお前を…愛してる」


「嬉しい…。ぎんちゃん…この気分のまま眠らせて…。起きた時、傍に居て…。夢じゃないって言って私を幸せな気分にして…」


「ああ、わかった…。ずっと傍に居る。だから安心して眠れ…」



目尻を伝った涙を唇で吸い取ると、若葉は安心したように瞳を閉じてまた眠ってしまった。

唇に耳を寄せて息をしているのを確認したが、若葉が身体を起こすことができるまでずっと離れないと決めた銀は、主さまにお願いして百鬼夜行をしばらく休むことを願い出ようと決めた。
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