主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
道標とは、それに見合う道を指し示す未来への道筋のこと。

晴明が息吹に敷いた道標は間違いなく、息吹が幸せになるべき道のはずだった。

屋敷へ引き取ってからずっとーー幸せになってもらうことばかりを考えていたのに…


「おかしいねえ…こうなるはずではなかったのだが」


「父様はぐらかさないで!父様のお母様があそこに居るっていうのは本当なの…?」


目の前で正座して、一言も聞き漏らすまいという姿勢を強く打ち出している息吹の前で困り果てた晴明。

何の弾みかーー今まで母…葛の葉のことを聞かれてものらりくらりと躱していたのだが、とうとう話す時が来てしまったらしい。


あの憎むべき帝が座す場所で、きっと埃をかぶっているであろう最愛の母。

その皮はどのような高熱にも耐え、衣のように軽く、当時は好奇の的にもなった。


だが今は宝物殿の光も差さないような場所で、成仏することもできず、朽ちることもできずに眠っているのだ。


「息吹…それを知ってどうするんだい?」


「今まで聞いちゃいけないことかなって思ってたけど…父様、ちゃんと話して。父様の母様は帝が…?」


…というよりも、その一族が。

口には出さなかったが、聡い息吹には伝わったようだ。

ただただ、驚愕したかのようにその可愛らしい唇を少し開いて見つめてくる。


うっかりーーでは済まされない事態になってしまった。

母のことは己でけじめをつけると決めていた晴明には、息吹を巻き込むことなど全く考えていなかったのに。


道標は、一体どこから狂ってしまったのか。

そして行き着く場所は、どこになってしまったのか。


「父様…」


その声色に、晴明は怯えた。

言ってほしくないことを息吹が口にしようとしているから。


「息吹…やめなさい」


「父様…私が父様の母様を救い出します」


…あんなに行きたくないと泣いていた場所なのに。

自分のせいで、自らそこへ飛び込もうというのか?


汚れた視線や手で、愛しい娘が犠牲になろうとしているのを止めることができないのか?


「…息吹」


語気荒く、強く名を呼んだ。

だがその分強い眼差しが、晴明を射抜いた。


「止めても無駄です。父様、私のことなら大丈夫。父様…こんな大切なこと、ちゃんと話してくれないと。私は父様の娘なんだから」


じわり、と涙腺が緩んでしまい、慌てて天井を見上げた。

その手に、温かな手が重なる。


「血の繋がりがなくても、私は父様の娘です。父様の母様に、ここに戻ってきてもらいましょう」


なんと、優しい娘だろう。

晴明は、大きく深呼吸をした後、息吹の頭を柔らかく引き寄せて抱きしめた。
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