主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「…丙の話か」


銀に先手を打たれた若葉は、素直にこくんと頷いて正座をしたままぐっと銀に近付いた。

銀は乱れた白銀の前髪をかき上げて悩ましいため息をつきつつも、眼光は鋭いままに隣に座っている朔を睨みつける。


「何故お前が同席しているんだ」


「お前が若葉を傷つけないようにするためだ。ぎん、立場をよく弁えろ。お前はいずれ俺の配下になるんだから、ふざけた振る舞いをすると粛清するぞ」


朔の黒瞳にじわりと青白い炎が灯ると、瞳を逸らした銀は、膝に触れてきた若葉の手を握りながらまたため息をついた。


「嫁に行きたいと言うんだろう?…お前ははじめて求婚されて舞い上がっているだけなんだ。丙がどんな男だかわからないが、早まった行いをするな」


「早まってないよ。すぐ夫婦になるつもりはないし、今日からひのえちゃんのお家のお仕事を手伝うの。だからぎんちゃんの許可が欲しいの」


少し吊った若葉の瞳はまっすぐ銀を見据え、銀は赤子の時からずっと傍に置いて育ててきた若葉が嫁に行く想像をして胸を痛ませた。

…息吹を嫁にやった時の晴明もこんな痛みを感じたのかと思うと、今すぐこの痛みを分かち合ってほしくて仕方なくなり、話を早々に打ち切って腰を上げた。


「ぎんちゃんどこに行くの?」


「晴明のところだ。…ひとまず話はわかった。…行ってもいいが、口づけをしたり泊まったりするな。あと抱き合うのも駄目だ。とにかく触れ合うな。わかったか?」


「うん、それでぎんちゃんが怒らないならそうする。ぎんちゃんが怒るとやだ」


返事をしないまま銀が家から出て行き、なんだか見捨てられた気分になった若葉が俯いて黙り込んでいると、朔は若葉の手を引いて立ち上がらせて、同じように家を出た。


朔の背中もまた怒っているように見えた若葉は、いつも傍に居てくれた銀と朔の存在を遠くに感じてしまって、途方に暮れた。


…嫁に行くとは、普段一緒に居た人と離れて暮らすこと――

新しい伴侶と家族と共に暮らすこと――


ではもう…銀や朔たちとは会えなくなるのだろうか?


「…それはやだな…」


「…若葉?もう話は終わっただろ、行こう。…どうした?」


「朔ちゃん…私がお嫁さんに行っても仲良くしてくれる?」


縋るように問うと、朔は素直に首を横に振ってまた背中を向けた。


「新しい暮らしをするべきだから、会わなくなると思う。嫁さんに行きたいって男と出会ったんだから、それ位耐えられるだろ」


また若葉の脚が止まる。

耐えられない、と思った。
< 96 / 593 >

この作品をシェア

pagetop