主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
とぼとぼとした足取りで若葉は丘を下り、先を行っている朔が振り返りもしないことを気にしていた。

いつもなら手を繋いでくれるのに、振り返りもせずに枯葉を蹴りながら突き進んでいく朔を小走りに追いかけて着物の袖を握った若葉は、原因が自分であることをはっきりと感じていた。


「朔ちゃん…怒ってる理由を教えて。私がなんにも知らないと思った?ちゃんと気付いてるんだから」


「…お前もぎんも勝手すぎる。…丙のことが好きで“夫婦になりたい”って言われてその気持ちに応えるんなら、俺が丙と同じことを言ったらどうするんだ?」


「…え?朔ちゃんが私をお嫁さんに欲しいっていうこと?」


「…」


それっきりまた黙り込んでしまった朔の横顔はふてくされていて、もし朔に同じことを言われたら…と考えると、若葉の頬が少しだけ赤くなった。

若葉の表情はあまり動くことがないので逆に朔が驚いてしまって立ち止まると、若葉は俯きながら袖をくいくいと引っ張って腕に抱き着いた。


「朔ちゃんは半妖でしょ。私が先に死んじゃうから駄目だよ」


「少なくとも丙よりは幸せにしてやれる自信はあるんだけどな」


「朔ちゃん…」


若葉はこの時よくよく朔を観察してみた。

骨張った手に、ほっそりしているが意外にたくましい腕や肩…

真一文字に結ばれている唇は母親の息吹に似て少しふっくらしていて、すっとしている鼻梁と少し吊った切れ長の瞳…

寺子屋の同級生の女子たちは、朔が送り迎えしてくれる度にきゃっきゃと騒いではうっとりしていたが――そうなのだ、この半妖は…美しすぎる。


「朔ちゃんって主さまにもお姉ちゃんにも似てるね。2人のいいとこを全部もらったみたい」


「…誉めたって蜜柑しかやらないからな」


「半分こしよ。朔ちゃんのこと好きだけど、朔ちゃんは私が好きっていうわけじゃないんでしょ?ひのえちゃんは私のこと好きって言ってくれたの。早く夫婦になって幸せになってぎんちゃんを安心させてあげなきゃ」


「…逆効果だと思うけど」


話しているうちに屋敷に着くと、大広間で主さまと息吹が火鉢を囲んで生まれたての赤子をあやしている姿が在った。

あんな夫婦になりたいと願っているが…丙もそう思ってくれるだろうか?


丙は…自分を認めてくれるだろうか?
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