主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
結局主さまの屋敷に寄ったものの居場所が無くなった気がして途方に暮れた若葉は、約束通り丙の家に行って戸を叩いた。

すぐに丙が現れて家の中に入れてくれたが――どこか沈んだ表情をしている若葉に気付いた丙は、若葉の手を引いて今に行くと、囲炉裏の前に座らせた。


「どうした?何かあったのか?」


「ううん…ぎんちゃんと朔ちゃんがちょっと怒っちゃって…自分でなんとかできるから大丈夫」


「なんとかできなくなったら俺に言って。銀さんには元々ちゃんと頭下げてお願いするつもりだったからさ」


…今、丙が頭を下げに行ったとしても銀は聞き入れないだろう。

朔も同じかもしれないが、銀よりも幾分か会話を交わしてくれるので、まずは朔に会わせようと思った。


「朔ちゃんが今度ひのえちゃんを家に連れて来いって言ってた。来てくれる?」


「え、だってあそこは…主さまの屋敷だろ?俺なんかが入っても大丈夫なのかな…」


「日中は妖はあまり居ないから食べられないよ。…朔ちゃんは心配してくれてるの。ひのえちゃんがどんな男だか知りたいって言ってた」


「品定めされるわけだ?…朔様から認められなかったら夫婦になれないのか?」


相変わらず気持ちを真っ直ぐぶつけてくる隣の丙を見上げた若葉は、ふるふると首を振って爆ぜる炎を見つめた。


「そうじゃないけど…でもぎんちゃんが駄目だって言ったら駄目。夫婦になって赤ちゃんを生んで、ぎんちゃんに抱っこさせてあげたいの。ぎんちゃんはああ見えても子供が好きなんだよ。捨てられてた私を育ててくれたくらいなんだから」


「…若葉は銀さんに惚れてるんじゃないよな?銀さんを安心させてやりたいんだよな?」


――銀に惚れているか惚れていないか…

今までそんなことを考えたこともなかった若葉がきょとんとしていると、奥間から丙の両親が現れて若葉を見るなり顔を輝かせた。


「あらあら若葉ちゃんいらっしゃい。そうして2人で座っていると、なんだかもうお似合いの夫婦みたいねえ」


「な…っ、からかうなよ!ほら若葉、寺子屋に行こう。これからは俺が送り迎えするから」


「うん、ありがとう」


今まではずっと朔が送り迎えをしてくれたのだが――今後は銀だけではなく朔との時間も減ってしまう――

それもまた若葉には想像できないことで、胸を押さえながら草履を履いて外に出ると、何かが狂い始めてしまったことが苦しくて、いつも以上に無口になってしまった。
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