主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
寺子屋に行った後再び丙の家に戻って畑の仕事を手伝っているうちにすっかり陽が暮れてしまい、手を土だらけにした若葉が草を引っこ抜いていると、誰かの視線を感じて腰を上げた。


「…?誰かに見られてる気がする…」


「若葉、どうした?」


若葉がきょろきょろしていると――畑のすぐ傍に立っている一本松の頂上に猫又が上っているのが見えた。

…息吹が心配してくれているのはわかるが、自分だって丙と夫婦になろうというのだから、1人前として扱ってほしいという気持ちもある。


「帰らなきゃ。ひのえちゃん、今日はもう帰るね。ぎんちゃんが百鬼夜行に出るから送り出してあげなくちゃ」


「じゃあ俺が送って行くよ。…若葉?」


引き留める丙の声にも振り向かずに野良作業をする時に着る前掛けの姿のまま駆け出した若葉は、一本松の上に居る猫又に手を振って降りてくると、一緒に主さまの屋敷へ早足に向かった。

最近銀とはあまり会話はないが、それでも銀を百鬼夜行に送り出す日課は続いているし、今後やめるつもりもない。

だが…丙と風になればそれもできなくなる。

…できなくなったり会えなくなる人たちが多くなるばかりで、その度に若葉の気も重たくなっていた。


「ねえ、お姉ちゃんに言われて私を見張ってるの?」


「見張ってるんじゃないにゃ。見てるだけにゃ」


妙な言い訳をした猫又の尻尾を握りながら屋敷に着いた若葉は、息吹を見るなり腹を出してひっくり返った猫又を見て笑った息吹に笑顔を向けた。


「お姉ちゃんただいま。まだ百鬼夜行に出てないよね?」


「うん、これからだよ。それより土だらけだよ、急いで帰って来たの?こっちにおいで、はたいてあげる」


息吹は喉を鳴らす猫又の腹を撫でた後、土だらけの前かけを外し、爪の間に入っている土をぬるま湯につけて丁寧に全部取ってくれた。

こうした時間を持てることをとても大切にしていたが、若葉は語彙が少なく感謝の気持ちを素直に表すことが得意ではない。


「お姉ちゃん…ありがとう」


そう言うのが精一杯だったが、息吹は若葉の不器用な性格を熟知した上でにこっと微笑んで、若葉を和ませた。

そうしているうちに…鼻をすんと鳴らした若葉の表情が曇り、息吹が首を傾げると――


「…ぎんちゃんと女の人の匂いがする。また遊んできたのかな」


今後、銀の女遊びは拍車をかけて悪化する一方になった。
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