偏食家のテーブル
カナの小平のアパートから吉祥寺までは三十分で着く。そして、今はもう通い慣れた道を進むと、ソコに『Hail To Reason』がある。いつものように階段を降りると、いつものような音がカナを迎えた。
「よう!」
猪野センパイだ。彼は大学を辞めていた。自らの手で立ち上げたIT系の会社が軌道に乗ったからだ。高校の文化祭実行委員長が、いまやネット界の豪腕社長だ。しかし、その頃から彼の会社の実態はわからなかった。大学の知り合いの話だと、ほとんど「ネズミこう」に近い形だと言う。
「YO!YO!カナじゃん、久しぶり。元気してた?」
コレは?…誰だ?
「ダレ?」
轟音の中でカナが猪野に尋ねる。
「オイオイ。オレ、オレだよ。マサト。」
ソレは川上雅人だった。黒い肌、青い目、長髪の中に金色のエクステ、凄い変わり様だったが、一年前に出会ったマサトだった。
「ヤベ!オレ回さねえと!」
猪野が会話も終わらないうちにステージに向かう。そのステージにはハルカがスタンバイしていた。

「聞きたいのぉ?」
『オォー!』
「どうしてもぉ?」
『イェー!』
「じゃ、始めましょ!」

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