バイナリー・ハート 番外編


 小馬鹿にされたような気がしてムッとするランシュに、フェティは笑いをこらえながら弁明した。


「それって三年前の話でしょ? あれ、ウソよ。恋人なんていないわ」
「へ?」


 三年前、ランシュがまだ科学技術局内で生活していた頃、フェティに恋人がいるという噂で局内が大騒ぎになった事がある。

 なにしろフェティは抜群のプロポーションを持つ美女だ。
 密かに憧れている男性局員も少なからずいた。
 だが、頭が切れる上に生真面目で厳しく冗談が通じない事でも有名だった。
 そのため浮いた話は全くなかったのだ。

 突然の恋人発覚に、相手は誰だと皆が思ったが、それをフェティに問い質す勇気のある者はいなかった。
 局長じゃないかと囁かれた事もあったが、それは局長が全力で否定した。
 おまけにフェティのあしらい方をその恋人に教わりたいとまで言っていた。

 友人のような関係にあったランシュにも、相手の見当はつかなかった。
 もっとも、その頃のランシュは、命の終わりに焦っていたので、子どもの頃のようにフェティと親しく話す事もなかったのだが。

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