バイナリー・ハート 番外編
「オレが男だって事、忘れてない? 恋人がいないなら遠慮しなくてもいいんだよね?」
そう言いながら、ゆっくりと顔を近づける。
フェティは真顔のまま黙ってランシュを見つめていた。
唇が触れあいそうになってもフェティは微動だにしない。
心拍数は少し上昇しているものの、まったく動揺していない。
むしろ自分の鼓動の方がうるさい。
ランシュは少し身を引いて、目の前で問いかけた。
「どうして逃げないの?」
「逃げて欲しかったの?」
逆に問い返されて、ランシュはうっかり本音を漏らす。
「だってちょっと脅かそうと思っただけだし、この先はデータがないっていうか……」
フェティは上目遣いにランシュを見つめてフッと笑った。