バージニティVirginity
海辺にあるログハウス風の別荘に着いたのは、午後ニ時過ぎだった。

すぐに桜田は、ダブルベッドの置いてあるベッドルームに玲を誘った。

ベッドには、青いチェックのベッドカバーが掛けられ、窓には黄色のギンガムチェックのカーテンが付けられていた。


まだ、陽の明るいうちに服を脱がされた。

男の前で裸になるのも初めてだったが、桜田の自然な手つきが玲から羞恥心をなくした。

まるで、医師の内診を受けるような気持ちになった。


綺麗だ、すごく可愛い、こんなに完璧な形のバストは見たことがないと、桜田は目を輝かせて、玲の裸体を賞賛した。

あまりにも桜田が喜ぶので、嬉しくなった玲はふざけて、いろんなポーズを取ってみせた。


桜田が服を脱ぎ、男の裸を見せた時、急に恥ずかしくなり、玲は目を伏せた。

何が始まるのかわかっていたはずなのに。

男を知らない玲は、桜田に抵抗してしまった。


「ここまできて、それはないんじゃない?」

裸のまま、ベッドの上で憮然とする桜田に玲はごめんなさい、と謝った。
なぜか涙が出てきて、泣いた。


ーーなんだか怖くなってしまって……

玲の言葉に桜田は驚いた。


もしかして、初めてなの?ほんとうに?と何度も訊いた。

俯いてうなづく玲に、桜田は煙草を揉み消すと、勢いよく、覆いかぶさった。


「痛いよ。覚悟して」

そう言うと桜田は、荒々しく玲にキスをした。







桜田は既婚者だった。


うかつなことに玲は桜田と関係するまでそれを知らなかった。
考えもしなかった。

桜田との会話、車、別荘。

どこにも所帯染みたところはなかった。
気が若い桜田は30代半ばに見える。



昼間、外回りの時、電車の中で清水が何気なく言った。


「うちの下の子と、桜田設備の社長の娘、偶然同じ幼稚園なんだよね。運動会の時、桜田一家に会ってさ。世間は狭いよな」



ーーうそでしょう!?酷い!なぜ、言ってくれなかったの……


生々しい桜田の家族の話に、玲は泣いて荒れた。


「別に隠すつもりはなかったんだ」

泣きじゃくる玲を、桜田は抱きしめた。

「玲を愛しているからこそ、言えなかった。だいぶ前から妻とは家庭内別居してる。必ず離婚するから、そばにいてくれ。俺には玲が必要なんだ」


縋るように桜田は言い、玲は半信半疑に思いながらも、彼を許した。


若い愛人となった玲に桜田は度々、高価な贈り物をした。

小粒のダイヤのリング、グッチのハンドバッグ、ヴィトンの財布。

品川の高層ホテルで二人で過ごしたクリスマスには、ティファニーの腕時計を贈ってくれた。





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