雨夜の密会



マンションまで送って来てもらった時には、雨は小降りになっていた。



「ありがとう」


私はお礼を言ってシートベルトを外した。



「こちらこそ、ありがとうな」



ドアを開けて車から降りる。


何でだろう……。


凄く寂しく思うのは。


雨のせい?


それとも……。



「真緒ちゃん!」



鳴海さんがくるまから降りてきて、私の名前を呼んだ。


振り向く私。


その時……。



「真緒?」



えっ?


声のする方へ向く。


そこに立っていたのは和臣さんだった。


ゴルフウェアを着て、ゴルフバッグを持った和臣さん。


ニコリともせず無表情で立って私を見ている。



「真緒?何してるの?」



近付いて来る和臣さん。


私は鳴海さんの方へ向く。


同じように鳴海さんの方へ向く和臣さん。



「和臣さん、あのね……」


「初めまして、真緒ちゃんの伯父さんの写真館でカメラマンをしている鳴海蓮です」



鳴海さんはそう言って、和臣さんに名刺を差し出した。


それを無言で受け取る和臣さん。



「あいにく、今名刺を切らしてまして……」


「いえ、結構です」


「妻がお世話になりまして」



そう言った鳴海さんの表情は全く変わらない。


怒ってるのかもわからない。



「いえ……」


「真緒?帰るよ」


「……はい」



和臣さんは私にそう言って、1人スタスタ歩いてマンションのエントラスに入って行った。



「真緒ちゃん、ゴメンね」


「ううん」



俯いてそう言う私に、鳴海さんは頭をポンポンとしてきた。



「じゃあ、帰るね……」


「うん……」



鳴海さんが車に乗り込み、車をゆっくり発進させた。


私は鳴海さんの運転する車が見えなくなるまで見送った。





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