雨夜の密会
「嘘だったのか?」
「そう。私の演技どうだった?」
「ふざけんなよ!」
「怒った?」
「当たり前だろ?」
俺がそう言うと、葵ちゃんは少しだけ悲しそうな目をして俺を見た。
「ゴメンね……」
「大人をからかうなよ」
葵ちゃんは上半身を起こして、立ち上がる。
白い夏の制服が土で茶色くなっていて、それを手でパタパタ払う。
俺は腕時計を見た。
ヤベッ!
あと早く行かなきゃ。
俺はベンチに置いてあったリュックにカメラを入れる。
「もう帰っちゃうの?」
「うん……。午後からの撮影が始まるから。下っ端はいろいろ準備しなきゃいけないから」
「大変だね。あっ!写真、出来たらちょうだいね!」
写真、ちょうだいって……。
ここで別れたら、葵ちゃんとはもう会う事もない。
だからどうやって。
…………あっ!そっか。
俺はリュックから名刺入れとペンを取り出して、その中の1枚の名刺に自分の携帯番号を書いた。