Snow Drop Trigger
「私のポテトはシナシナだけなの!?」

「うわーん!
桃瀬のポテトもシナシナのなのー⁉」

「てか俺も何故か、とばっちり受けてるんだけど」


同じような発言をする亜衣と桃瀬。

そしてとばっちりをさりげなく受けてる康介。

半泣き状態で身を乗り出して悠太の首元を掴む亜衣に対して、無表情でポテトをつまむ悠太。

……フードコートの片隅で何してるんだ、この集団は。

俺は苦笑を浮かべながら、康介の耳元に近付いて呟いた。


「御客様」


康介は俺達が後ろに既にスタンバイしている事に気が付いていないようだ。

まあ、亜衣や桃瀬側からは見える位置に居るから仕方ないと言えば仕方ないのだけど。


「本当にシナシナのポテトしかねーじゃんか。
悠太、よく選別したなぁ……」

「もーっ!
悠太、もう一個買ってきてよぉ!」

「俺、金が無い」


そう言って財布を持って上下に動かす悠太に、呆れたように溜め息をついた亜衣とようやく目が合う。

亜衣が言葉を発する前に俺は自身の口に人差し指を当てる。

それが意味する行動を瞬時に察した亜衣は、一つ頷いた。

そんな亜衣の隣に居る桃瀬は、萎びたポテトを口に含んで味に不服そうな表情を浮かべた。


「 私もお金、無いよ☆」

「桃瀬は年中金欠だろ?」

「何だと康介ぇー!
髪の毛、引きちぎるぞーっ!」

「おい、止めろって。
……あの二人、やけに遅いな」

「あー、そう言えばそうだねー!
涼弥、ちゃんと渡せたかなぁー?」


俺の横で『渡せたよ!』と言いたそうにしている涼弥を何とか落ち着かせる。

すると康介が爽やかな笑みを浮かべながらこう言った。


「流石に鈍感な正恭でもあれだったら大丈夫だろ」


その言葉がきっかけとなり、テーブルに片膝をついてシナシナになったポテトをつまむ康介の耳元に近付く俺。

そして、割と普通のトーンで囁いた。


「御客様、周りの御迷惑になるのでもう少し御静かにお願いします」

「いっひゃあああっ! ごめんなさいぃい!」

「っおあ!
すみませ……って、正恭と涼弥か」


見える位置に居る筈の桃瀬まで驚いているのは想定外だったが、康介も情けない声を上げたから満足だ。

ちなみに悠太は全く驚きもせずにナゲットをつまんでいた。

桃瀬と亜衣が涼弥を、二人の間に座るように指示した。

涼弥はそれに従って、桃瀬と亜衣の間に座ると空席は一つになった。

康介にわざと「俺じゃ役不足か?」と聞いたら、康介は笑いながら「主役を蔑ろにする程、俺は馬鹿じゃないよ」と言って俺に手招きをした。

悠太も俺が最後の空席に座ると視線をきちんと絡ませてくれた。

席について、ぐるりと周りを見渡す。

俺の左側に悠太、その正面に亜衣。

対する右側には康介、そしてその正面に桃瀬。

最後に、俺の正面に涼弥と視線を絡ませると、彼女達はニッコリと笑って口を揃えて俺に言った。


「正恭、ハッピーバースディ!」

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