Snow Drop Trigger
※ ※ ※ ※ ※


「……食べ過ぎた」


顔を青ざめた俺の姿が、男子トイレの手洗い台の鏡に映る。

あの後、金欠だと言っていた筈の桃瀬が何故かファストフードを大量に購入してきた。

それもポテトやナゲットという塩っ気のあるもの、そして揚げ物オンリーという鬼畜なセレクト。

大量の油っこい食品をトレイに積んだ桃瀬がテーブルにそれを置いた刹那、常識人的立ち位置の俺と涼弥と亜衣と康介の表情が固まった。

確かに亜衣達はシナシナのポテトしか残されてないという理不尽さを受けたものの、この大量のファストフードが意味するその後の様子は容易に想像出来る。

大量の揚げ物が来る前の範囲内で空腹を満たしていただろうから、また追加された揚げ物達を見て追加前より食べる気は失せるだろうに。

元々ここに集まった人物達で揚げ物をこんなに食べるやつは一人を除いて居ない。

俺達は、大量のソレを見て胸やけを起こすと言わんばかりの表情を浮かべていた。

俺も一応男子なので割と大量の食物は消費出来るとは思う。

だが、想像してなかった尋常じゃない量に、これは実は俺の誕生日祝う為じゃなくて日頃の鬱憤を揚げ物で晴らす桃瀬の策略なのではないかと錯覚する程だった。

ちなみに、トレイ6つ分にポテトのLサイズやナゲットの箱が落ちない範囲内の2段重ねになっている。

逆に無表情でポテトを貪り続ける悠太には物凄い感謝と同時に、胃の寛大さを評価せざるを得ない。

そして何とか揚げ物を消化した後にフードコートより手前に位置するケーキ屋で、桃瀬が5号サイズの生クリームケーキを予約していたのだと聞いた時は、本当に胃が破裂する危機を感じた。

ほぼ悠太が消費してくれたからいいとして、流石に揚げ物の後の生クリームケーキという糖分の攻撃には大層参った。


「……思い出したら吐きそうだ」


胃液がこみ上げてくるような感覚がしたので、俺はそれ以上考えないようにした。

手を洗い、通学用の黒いリュックサックの中からハンカチを取り出す。

ハンカチで手を拭きながら俺は、皆から貰ったプレゼントの包みをぼんやりと見た。

貰ったあの場で開けたかったが、如何せんあの鬼畜な食物のセレクトに気を取られててそれどころでは無かった。

康介に貰った小さな茶色の紙袋には、側面に赤いリボンが貼り付けてある小柄でシンプルな外装の箱。

その中に入っていたのは、腕にはめるブレスレットタイプのパワーストーン。

黒と白を基調にしたそれは、バランスの良いデザインだった。
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