雪風‐冷たくさらっていくもの‐
「恋心まで失くさなくても、健二にとって大事な友人になればいいんだよ。恋人になるよりずっと大事にしてもらえる。恋心は親愛で覆ってごまかしちゃえばいい。風乃はめったに問題起こさないし、なんとなく健二に甘えたくなったら恋人にならなくても今日みたいに引き留めればいいしさ。そういう時は風乃は僕がもらうし、思い切りできるだろ」
あっけにとられたように木葉が僕を見た。
そして何かが抜け落ちたような声で、ああそうか、と呟いた。
「浅見の想いごと、灰にして覆って消えてしまえばいい」
きっと木葉が僕をにらみつけた。
「あんたみたいな奴、嫌いよ」
「そう。僕も浅見が嫌いだよ」
ただ風乃や健二の大事な友人だから付き合ってきただけだし。
「でも、ありがとう」
ふっと木葉が笑った。
木葉は手紙の最後だけ和訳しなかった。
with all my love,
手紙の最後につける草々みたいなもので、本来は親しい相手に贈る手紙のしめになる。
意味は、心から愛をこめて。
手紙を書いた女性が、隠さなきゃいけない想いを本当に記したのはwith all my love,だ。
木葉はそれだけ訳さなかった。僕には訳す必要がないと思ったのか、それとも、そのときにはもう、木葉は恋心を覆い隠してしまうことを決めていたのかもしれない。
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