雪風‐冷たくさらっていくもの‐
昼食を食べ終わって、僕たちは一息ついた。
屋上に人気はなく、春らしい風が少しの熱気をはらんでそよそよと吹いていた。
「気持ちがいいね」
甘えるような声で風乃が言った。
「うん」
眠くなったのか風乃は僕の肩に寄り掛かってうつらうつらし始めた。
確かに眠くなりそうな心地で、僕は春に同化したみたいに穏やかな気持ちになった。
ふいに、風乃が寝ぼけた声音で中2の冬まで呼んでいた名前で僕を呼んだ。
「さゆ」
僕は応えなかった。応えることはできない、してはいけない。
「大好きだよ」
僕は顔をあげて、無意味に空の青さを確かめた。
しばらくして鳴ったチャイムに風乃が目を覚ますまで、僕は寝息を立てる風乃をそのままにしておいた。
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