執事ちゃんの恋
「ごめん、ごめん」
「……」
「どんなヒヨリでも可愛いよ」
「っ! な、な、なんてこと言っているのよ! 健せんせってば」
「いや、本当のことしか言っていないけど?」
「っ!」
「ふふ、やっといつものヒヨリらしくなってきた。私のことを健さまとヒヨリに言われると距離が遠くなった気がして寂しいからね」
「!」
言葉が出てこないヒヨリに、前を見たまま真剣な顔をして健は断言する。
「このごろのヒヨリはね、どんな格好をしていても色気がダダ漏れ」
「い、い、色気!?」
「そう、色気。注意しなきゃだめだよ、ヒヨリ」
「ちゅ、注意ってどうやって?」
健があまりに真剣に言うものだから、冗談を言わないでと流せない雰囲気だ。
健は突然ウィンカーを右に出し、緑深い緑地公園の駐車場へと入っていく。
今日は天気もよく、ウォーキングをしている人などもいたが、駐車場には車が数台停まっているだけで誰もいなかった。
少し乱暴に車を駐車させ、健はシートベルトを取るとヒヨリを引き寄せた。
「ちょ、ちょっと! 健せんせ!?」
「ほら、男装をしていても色気が溢れてる……」
「健、せんせ……」
「こんなに私を誘惑して、ヒヨリは私をどうしたいの?」
「誘惑なんてしてないし、どうしたいだなんて……」
気がつけばヒヨリは健にシートを倒され、押し倒されていた。
上からヒヨリを見下ろす健の瞳は、熱が込められている。
ヒヨリはその視線に見覚えがあった。
健がそんな視線をヒヨリに向けるとき、それはスイッチが入った時だ。
そう、官能というスイッチが。