冬が、きた。
すると、野々山くんは私の傘を手に取って、ばさっとそれを広げた。
「あ、あの……。それじゃ、あの、もし良かったら……一緒に、駅まで、歩かない……?」
「え……?」
見上げた野々山くんの顔は、信じられないほど、真っ赤だった。
「うん……!」
私は野々山くんが差す傘の中に、ひょいっと入った。
「………野々山くん、アルトサックス吹いてるんだね。全然知らなかった」
「うん、中学から、ずっとサックスやってるんだ。雪音さんは?」
「私は、ずっとバスケ。高校が、バスケの強豪校でね、練習がつらくて、もうバスケはこりごりって感じになって、大学ではやめるつもりだったんだけど、やっぱりサークル入っちゃった」
「雰囲気とか緩くなっても、気にならないの?」
「全然気にならないよ。むしろ、わいわいやる方が私は好きかも。………あの、話かわるけど、ちょっと聞いていい?」
「ん、なあに?」
「なんで、野々山くん、私のこと名前で呼んでくれるの?……あの、全然嫌じゃあ、ないんだけど、その、意外、っていうか……」
「あっ、あの、それは、えっと………」
野々山くんは、また真っ赤になってしまった。