冬が、きた。





やがて入り口が開けられて、列が前へ進んでいった。


入ると、いつものようにサンタの格好をした女の人が、パンフレットを手渡してくれた。


中に挟まれたものを見ると、
………小さなチョコレート。


あの日と、同じ。


ロビーを進んで、ホールの中へ入る。


前から15列めぐらいの、真ん中の席に座った。


『…………ねえ、僕の顔が見たいからって、前の方の端っことかに座っちゃだめだからね』


『え、どうして?』


『音のバランスが悪く聞こえるから』


『じゃ、どこに座ったらいい?』


『真ん中だね。全体の席の、ちょうど真ん中ぐらいが良いと思う。………本当は、指揮者がいる場所が、一番良い音が聞こえる場所だって言われるんだよ』


『ええっ、客席は?』


『そう、僕らが聞かせたいのは、指揮者じゃなくてお客さんだ。
だから僕らはね、指揮者のその先にある、客席へ音を飛ばそうとする。でも、どこへ音を飛ばすかを演奏者みんなで統一しなくちゃ、音はまとまらない』


『じゃあ皆、真ん中辺りを狙って演奏してるの?』


『そうだよ。指揮者に意識を向けながら、音は、そこをめがけて飛ばすんだ。僕たちのバンドはね』


………一年前。


コンサート前に、慎くんが教えてくれた、とっておきの場所。




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