お腹が空きました。
突然ぼそっと落ちてきた低い声にびっくりして紗耶は上を見上げた。
彼は感情が読み取れない淡々とした響きで続ける。
「こういうとこ、来ない方が良いと思う。桃のお兄さん、悲しむと思う。」
「え?あーー、なるほど。」
杉崎さんのことか、と紗耶は笑った。
「違う違う。私もともと杉崎さんの彼女じゃないんだー。」
ただの部下、と頭をかきながら紗耶は下を向いた。
…たぶん、そうとう手がかかる部下だと思われてるんだろうなぁ。
ハハハと一人で笑って紗耶は顔を上げる。
「ちょっとね、杉崎さんには色々お世話になってるの。亜栗さん元気?」
こくりとまた譲原は頷く。
「そっか、なら良かったー。」
「…桃も、元気。」
夜道を進む足がだんだん軽くなって来た紗耶は、桃汰を思い出しクスクス笑った。
「桃汰君本当杉崎さんにそっくりだよね。ゆず君も桃汰君に誘われてあそこでバイトはじめたの?ケーキ好き?」
またこくりと素直に頷く譲原に、紗耶は誰かさんの事を思い浮かべて笑った。
…杉崎さんも、素直にケーキが好きだって言ったら良いのに。
まあ、その妙なプライド含め、杉崎さんは杉崎さんなんだけども。
「……最近、」
「ん?」