お腹が空きました。
バタンッと車の扉を閉め、杉崎は考え事でもしているような返事をした。
歩く杉崎の跡を紗耶が追う。
杉崎の背中は広い。
会社でのこの威圧感は息苦しさをともなうほどだ。
しかし。
オフ状態の杉崎の背中はたくましさこそあるが、そんな息苦しさは消え、どこか虫捕りを楽しむ子供みたいな無邪気さが漂ってくる。
紗耶はこの雰囲気は割と好きだなと思った。
会社の誰も知らない。
自分だけが知っている杉崎のこんな背中。
「は、早いです杉崎さーんっ」
紗耶はにっこり笑いながら杉崎の背中を追いかけた。
◆
「今日はスフレチーズケーキにするつもりだ。」
スーツをハンガーにかけながら杉崎はニヤリと笑った。
やったーっ!と紗耶は小さく拍手をしながらくしゃりと顔を寄せる。
はしゃぐ紗耶を置いてキッチンに入った杉崎はいつものように棚からボウルや計量カップなどを取り出し始めた。
「あっ、あのっ杉崎さんっ」
紗耶は慌てて杉崎に駆け寄る。
「あ?なんだ?」