お腹が空きました。
自分自身も麦茶を傾けながら杉崎は立ったままポツリポツリと喋る。
「甘い匂い。女みたいなキツくてデカイ目。加えて低い身長。小学生のときの俺は家がケーキ家って事で良くからかわれた。…まぁ端からぶっ飛ばしていったけど。」
カタンとコップを置き、杉崎はチラリと紗耶を見た。
「それでも俺は将来ケーキ屋継ごうとなんとなく思ってたんだ。台所使って練習したり、こっそり親父の作業後ろから見てたり。でもな、…ある日、そんないたいけな俺に。」
「…いたいけな俺に。」
「ハハっ、そうだ。んで、そんな俺に母親が言ったんだよな。…詳しい事は忘れたけど、…『お前には一生父親は越えられない。』…って。」
「あららーー。」
紗耶は体を固め、口だけぼんやり動かした。
「がくっと来るだろ?がくっと。」
「それは、…きますねぇー。」
実の母親から小学生にそんなことを。
それはちょっと、キツいかも…。
亜栗さんが言ってたのはこのことだったのかと紗耶は納得した。
「…情けねぇのは自分でもわかってんだけど、…そっからだな。毎日毎日家んなかが甘ったるい匂いでいっぱいだと腹が立ってしかたがなかったのは…。表にはださなかったが、ずーっと半分グレたようにケーキは焼かなかった…。そんな様子を見て色々考えたんだろうな…。姉貴は気が付いたら婿養子もらってた。それでも俺は何にも動かなかった。」
オーブンからチーズの甘くて香ばしい香りが部屋を包む。