お腹が空きました。
「大学から家を出た。やっとあの甘い匂いから解放されて、羽を伸ばして毎日有意義な大学生活を送っていたんだが…。」
杉崎はケトルに水を注いでセットする。
「うはうはキャンパスライフをですか?」
「うはう…、まぁな。でもなぁ、しばらくしたら、妙に落ち着かなくてな。」
杉崎は腰に巻いていた黒いエプロンをとり、降参したようにクスクス笑った。
「あれだけ嫌だった甘ったるい匂いが、…」
「今度は恋しくなっちゃったんですか?」
紗耶は杉崎を遠慮がちに覗き込みながら優しく微笑んだ。
「まぁ、そうだな。…バカみたいだろ。」
「バカじゃないです。バカじゃないですけど、やっぱり杉崎さんは意地っ張りですね。」
うるせぇ、と力なく杉崎は笑う。
そんな杉崎に紗耶もにっこり微笑み返した。