お腹が空きました。
心が狭いだろうか。
薄情だろうか。
でも、こういうのは、キッチリしておいた方がいいんじゃないかと思う。
だって嫌だ。
もし自分が今の彼女で、彼氏が自分とのあれこれを元カノに相談なんて。
惨めになるし、腹が立つと思う。
それに、別れた今は、不思議と彼の悪い所に目が行ってしまう。
付き合ってたころは気にしなかったのに。
恋布の目隠しは怖い。
ピンク色のそれを取り払った今、少し軽薄な等身大の彼の声を聞いて、紗耶は首を傾げる。
…やっぱり私は薄情な人間なのかもしれない。
携帯をカバンにしまい、紗耶は杉崎に上半身を向けた。
「…もういいのか?」
「はい、すみません時間取らせて。」
紗耶がニッコリ100点の微笑み返す。
「さ、さ、行きましょーっ。」
「…。」
車の扉を開けようと杉崎に背を向けドアに手をかけると、ぬっ伸びて来た大きなてに、紗耶は体を引き寄せられた。
「ぬわっ!」
後ろから脇に手を通し、片手で抱えられる形になった紗耶は首を上に傾け杉崎の顔を探す。
「無理して笑わってんじゃねぇよ。」
はらっと頬を撫でる杉崎の髪が、暖かく心に刺さる。
「…別に、無理なんてしてませんよ?」
紗耶は、自分より辛そうな顔をしている杉崎になんだか泣きたくなった。
実際、自分自身はそんなに辛くないのだ。
良介へのちょっとした不信感が積もっただけで、
じわっと嫌な気持ちが出ただけで。
…それなのに。
紗耶は杉崎の表情を天井を見上げるように覗き込む。
ぐっと我慢しているような、
杉崎さんのシワが寄せられた眉。
「…。」
紗耶はその眉間に妙な愛しさを覚え、小さく笑いながらそこをグリグリと人差し指で回した。
「なにすんだ。」
杉崎は紗耶の人差し指を払おうとはせず、体に回した腕にギュッと力を込める。
「杉崎さん杉崎さん。」
「なんだ?」
「キス、したいなぁー。なんちゃっ…っ」
紗耶がそう言い終わるか終わらないかの所で、
杉崎はくいっと紗耶の顔を傾け、
唇に甘いキスを落とした。