お腹が空きました。





「おいしすぎるーーー!!!!」


紗耶は天井に叫びながらバタバタと悶絶した。

軽い夕食をとり、待ちに待ったムースを口に含む。

口いっぱいに広がる甘酸っぱくて芳醇な果実の香りに、紗耶はあごの筋肉が溶けそうになった。


「果実系はそれなりにいいもん使ってたらそれぐらいになる。」

「それだけじゃないですよ!もう本当に絶対!」

紗耶は椅子にふんぞり返りながら偉そうに謙遜する杉崎に力説した。

「包丁の入れ方一つで果実も味が変わるってもんです!細胞潰すと後々汁が出てきてべちゃべちゃになっちゃいますし!それに下の層のムースと上の層のムースの絶妙なバランス!!なんで家庭でこんな深みのある甘さがだせるんですか!やっぱり杉崎さんはすごいです!」

握りこぶしをぶんぶん振る紗耶に、杉崎は滲み出る嬉しさを隠すように渋い顔をさながら目をそらした。


「まーー…、うまかったなら、良かったんじゃねーか。」


「あ、そういえば杉崎さん、」


「なんだ。」

「いまさらで本当に失礼なんですけど、…杉崎さんの下の名前って、なんていうんですか?」

杉崎は口元に持っていくコーヒーをピタリと停止させ、表情を固めた。


そんな杉崎を紗耶はきょとんと見つめる。



「…さて、腹ごしらえは済んだな?」



「え?まぁ、はい。」


「じゃあ、」


コーヒーカップをゆっくり机に置き、杉崎は立ち上がった。


「次はお前を頂くことにするか。」

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