お腹が空きました。


杉崎と店にやってきて2時間。

讓原が私服で部屋にやって来た。

ひょろりと長い無口のイケメンは、大人達にぺこりと頭を下げ、更衣室に足を進める。

「ごめんねっ!急に連絡して!」

申し訳なさそうに手を合わせて亜栗が謝った。

「いえ、着替えて来ます。」

狭い道幅を抜けながら讓原は紗耶の隣を通り過ぎる。


譲原は意味ありげにチラリと杉崎を見た。

そしてゆっくりと紗耶に視線を戻し、形の良い口を動かす。


「良かったですね。」

「え、」

紗耶だけに聞こえるぐらいの声でそっと讓原は囁いた。

「えっと、…?」

言葉の意味がイマイチ理解出来ず、紗耶は首をかしげる。

「…俺は早く桃に兄離れして欲しかったから。たぶんマキも喜ぶ。」

ボソボソと耳打ちし、讓原は珍しく少し微笑んで、奥の扉へと消えていった。


「…??」

バタンと閉じられた扉を見つめ、紗耶はさらに首を傾げる。

「おい。」

ぽんっと肩に手を乗せられ、紗耶は後ろに振り返った。




「帰るぞ。」




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