お腹が空きました。


それって…、「キッチンさん、今日も一日ありがとうっ!」みたいな意味だろうか。

紗耶は大きな手で背中をずるずると風呂場の方まで押されながら天井を見上げるように杉崎を見た。

「杉崎さんって結構乙女ですよね。」

「…お前、風呂場で犯してやろうか。」

真っ黒いオーラを放つ杉崎に、ひぃぃぃっすみませんっ!と紗耶は素早く謝った。







紗耶が風呂から上がる頃には、キッチンからリビングまでピカピカになっていた。

紗耶は素直にすんごいなと感心する。


「お先でした。」


「おー。」


着替えの服を持ってバスルームに消える杉崎の背中を見送って、紗耶はそっとソファに腰を下ろした。


小物やテレビにホコリがかかっていない。
テーブルには指紋一つない。

ピカピカの鍋やおたま。

光る床。


洗練、という言葉が頭に浮かび、紗耶はまたゴロンと横になった。

うーん、綺麗だ。

生活している温かさはあるのに整頓されている。

不思議な空間だなぁ、としみじみ思いながら、なんでなんだろうなぁと紗耶はのんびり考えた。

紗耶がなんでだろうなんでだろうと観賞植物を眺めていると、植木鉢にひび割れを発見。

「ん?」

よく見ると、その欠けている部分は丁寧に接着剤が塗られ、補正されていた。

直してある…。

紗耶は微笑みながらそっと植木鉢を撫でる。



そっか、杉崎さんは、身の回りのもの一つ一つが好きなんだね。



部屋に溢れるものそれぞれに杉崎の愛情を感じながら、紗耶はうとうとし始めたのだった。



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