幸せまでの距離

一瞬、固まって動けなかったメグルも、 ようやく思考が追いつき、

「アドレス、変えておけばよかったです ね。

トウマさんがどこで何をしようと、あた しにはもう関係ありませんから。

さよなら……!」

完全に別れを告げ、メグルはメイを追い かけた。

「……失礼します」

事情を知らないリクは、トウマに頭を下 げ、彼女達を追った。


会話のないまま、三人は駅のロータリー まで歩いた。

なぜ、メイがこのような行動に出たの か、メグルは理解していた。

メイがトウマを殴った時、汚い気持ちが 浄化された気がした。

「メイとカナデちゃんは、心友(しんゆ う)なんだね」

それは、メグルにとって退散の挨拶だっ た。

「店長から呼び出しメールきててさ。

今夜も、客多いみたいで。

カナデちゃんと話せなかったのは心残り だけど、そのうち絶対会いに行く。

今日のところは店に戻るよ。

リク君も、じゃあね!」

メイの返事を待たず、メグルは職場の方 に歩いていった。


帰宅ラッシュを過ぎた夜の駅前では、地 元の学生による路上ミニライブが行われ ていた。

初めて耳にする曲なのに、どことなく懐 かしいメロディー。

リクは聴くともなしにそれを耳にしつ つ、メイの横で言った。

「カナデちゃんと話せてよかったね。

これからは、メイがカナデちゃんの支え になってあげないとな」

「支え? 私には荷が重すぎるんだけ ど」

「そんな深刻に考えないで?……って言 うのも、ちょっとおかしいけど」

リクは和やかに笑う。

「『しんゆう』って、そういうモンじゃ ない?

相手のピンチに駆け付けて、お互いに幸 せなことを分け合う。

カナデちゃんに何があったのか……。

俺は詳しく知らないけど、カナデちゃん は追い詰められた時にメイを頼ってきた んだ。

メイとカナデちゃんは良い関係なんじゃ ないかな。

これからも、幸せや悲しみを分け合える ようなさ」
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