幸せまでの距離
メイが抱いたのは、怒りの感情だけでは なかった。
悲しみや憎しみ、そして、かつて保に感 じた愛着。
それらが心の一部を削り取り、メイの中 から何かが欠落していた。
「メイ、黙っててごめん……。
俺は知ってたんだ。
おじさんに、新しい家族がいること」
「…………」
リクの言葉を無視し、メイはおぼつかな い足取りで保の家の前まで歩いた。
金山宅の門に貼り付けてある標札を見る と、3人家族だということが分かった。
保の名前の下に、妻と思われる女性の名 前。
いちばん下には、子供の名前が書いてあ る。
洗濯物の種類や名前から察するに、小学 生くらいの幼い男子が住んでいるのだろ う。
怒りを覚えたメイは、やり場のないこの 感情をどこにぶつけていいのか分からな くなった。
木製の標札に爪を立て、傷をつける。
「自分だけ幸せになるなんて、許さな い。
昔の私を返せ、保……!」
「メイ……!」
家の中は電気がついている。
保が、家族との時間を過ごしているのだ ろうか。
窓から外に漏れる柔らかい光。
保達の笑い声が聞こえてきそうな気さえ する。
リクはメイの体を引き、金山宅から遠ざ かった。