きのこうどん
「自然?」
「違う。あそこ。あそこ。」
 
ガードレールの下の方。そこは青々と生い茂ったクローバーがいくつも重なり茶碗をひっくり返したようなドーム状になっていた。
 
そこから点々と飛び出す白い小花がやわらかな触覚のように突き出し全体で小さな緑色をしたナメクジが寝ている様にさえ見える。
 
「ほらぁ素敵な妖精が寝ているみたいでしょ?」
 
乙女モード全開の彼女はボクの手を引きながらそう言った。
 
だが、ボクには緑のナメクジが横たわっているようにしか見えない。
 
「う~ん?」

難しい。乙女って難しい。

「お茶碗ひっくり返したみたいにも見えるよね!」
 
「そうだね!」

それならボクにもわかる。
 
「ね?四葉、探さない?」

彼女はにっこりと笑う。
それにつられてボクも笑った。
なんでだろう。
 
さっきまで父さんのせいで怒っていたのに
背中の方からぞくぞくとしたものが流れてきてなんだか幸せだなって思った。

「うん。」
 
幸せだ。
クローバーの根元に手を入れると冷たくひんやりしていた。
 
その小葉の一つ一つが街の川辺で見られるものよりもはるかに大きくボクら指くらいある。
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