月の大陸
て、敵襲です!!
カイルと共にステファーノの護衛に残ったミランダは
2人と闇に消えるセリクシニに最上位の防御魔法をかけた
それと同時にカイルとステファーノの剣の攻撃力を強化する

「では、行くぞ!」

カイルを伴い駈け出したステファーノは魔獣の鋭い牙をかわし
正面から切りかかった

しかし、すぐに体勢を入れ替えた魔獣に体当たりをされてしまう
それでもステファーノは攻め続ける

…おかしい
ミランダはその時魔獣の異変に気付いた
始めは兵士たちの強化した剣での攻撃が効いていたのに
今はほとんど兵士たちの剣は弾かれ通用していない
それに…ステファーノ様のスピードでもかわしきれない動きを
あの巨体がするなんて…もしかして魔獣の動きが素早くなってきている…?

ミランダはすぐにプロスぺローに声をかけた

「プロス!攻撃力を上げて!!」

「はい!…ですが既に限界まで上げています。これ以上は剣が持ちません!」

プロスぺローの顔に若干の焦りと疲労が見えた

魔獣の力が途中から上がるなんて考えられない…もし可能性があるとすれば
どこかで魔獣に術をかけているのかも…
ミランダはすぐにほかの魔法使いの気配を探したが何も感じ取れない

「…こうなったら私から仕掛けてやる。」

中身は葵と言えど体はミランダ
すぐに魔法が浮かび使役できた

「Fiamma!」

右手に現れた炎の塊を魔獣めがけて解き放った
炎は蛇の形取り素早く地を這いながら魔獣の元へと到着した
そのまま魔獣に足を螺旋上に這い上がっていく
そして、魔獣の首のあたりまで到達したところで一本の細い蜘蛛の糸を発見した

ミランダは炎を通してその蜘蛛の糸に触れる
ピリっと静電気の様な軽い痛みを感じた

間違いない…この糸が魔獣への魔力の供給源だ
ミランダはグッと魔力を強めてその糸を焼き切った
とたんに魔獣が苦しそうにうめき暴走を開始する

「な、何事だ!?」

「魔力の供給源を切りました!これで攻撃が通じるはずです。
私が魔獣の動きを封じます。そこを狙ってください!」

ステファーノにそう告げるとミランダは魔法の蛇を魔獣の体に巻きつけて行く
そして魔獣が身動きの取れなくなったタイミングを見計らって
ステファーノの剣が振り下ろされた

「はっ!」

ギュウイギャヤァァウアァ!!!
断末魔の叫びと共に魔獣の首がドスンっと地面に落ち
数秒差で残りの巨体が倒れた

その光景を見て兵士たちに歓声が上がるが
ミランダとステファーノはまだ硬い表情のままだ

「セリクはどうした?まだ戻らないのか?!」

血ぬられた剣を清めながらステファーノがミランダの元へ戻ってきた

「はい。まだ戻りません。
私、追いかけます。」

「待て、俺も一緒に行こう。
カイルはこの場を頼む。魔獣にはだれも近づけさせるなすごい瘴気だ。
この地は穢れてしまったな。」

「ご心配なく。私が後で魔獣もろともこの地を浄化します。
プロス、それまで魔獣に結界をお願い。
まだ術師がその辺にいるかもしれないから警戒してね。」

「はい。承知しました。」

「お気をつけて。」

二人に見送られながらミランダとステファーノはセリクシニを追った
幸いセリクシニにはミランダの防御魔法がかかっているので
その気配を追う事が出来た

ミランダとステファーノがセリクシニを発見したのは古い教会の前だった

「セリク!無事か?!」

ステファーノの声にセリクシニが振り返る

「ステーフ?ずいぶん早いですね。そちらは終わったのですか?」

「ああ、ミランダのおかげでな。
こっちはどうだ。」

「術式を探していたら、黒いフードをかぶった者を見かけたので
後を追ってきたらこの教会に入って行きました。
試しにこの辺りを探してみたら、隠ぺいの術式の代わりにこれが…。」

セリクシニの指す方向にはロザリンドが松明を照らしていた

照らし出されたのは教会の錆びれた門扉だった
しかしそこには直径2メートルはあろう魔法陣が書かれている

「これはっ!!」

その魔法陣を見て一番に声を上げたのはミランダだった

「なんの陣か知っているのか?」

ステファーノの問いにミランダは驚きのあまりすぐには答える事が出来ない
それは通常ではありえない…存在するはずの無い魔法陣

「…転移魔法陣…ですよね?」

ミランダの代わりにセリクシニの声が響いた
ミランダは弾かれた様にセリクシニを見つめる
そこにはいつもより少し険しい緑の瞳があった

「転移魔法陣?!
しかし、魔獣を転移させるのは不可能だと言っていなかったか?」

「…確かにこれは転移の魔方陣です。」

ステファーノの張り詰めた声にミランダは静かに答えた

「魔獣を転移させる魔法陣を発動できる魔法使いは居ないと言ったのは
ミランダだったよな?!」

「はい。そう申し上げました。
…しかし、これはまぎれもなく転移の魔方陣。
そしてこの陣に使われている式は…私の式とまったく同じです。」

その言葉にそこにいる誰もが驚愕した

魔法陣の式はほとんど決まっている
転移魔法や封印魔法、結界魔法、どの魔法に用いる場合も
基本の式にその魔法用の式を組み込んでいくのだ
だから、魔法陣の式自体が魔法使い同士でかぶるのは
珍しいことでも何でもないが
被ったのが魔法使いの最高位である魔女の魔法陣の式と言うのが問題だった

ミランダの魔方陣は発動するのに強大な魔力を必要とするため
特殊な術式を組み込んであった
その為、その陣を使用できるのは、彼女以外居ない筈であった
もちろん同等の魔力を持つエアリエルが存在するが
エアリエルの魔法陣の式はミランダのモノとは異なっている

つまりこの魔法陣を使用した魔法使いは
魔女であるミランダと同等の力を持つことだ


「…そんな魔法使い存在するのか?」

「いえ…先代の魔女様たちがお亡くなりになった今
この世界には存在しないはずです。
私の術式を真似るなんて…不可能なのに…。」

ミランダの頭の中が次第に混乱し始める

「私が見た人間も黒いローブにフードを目深にかぶった
魔法使いのようないでたちでした。
顔は見えませんでしたがフードから長い黒髪が出ていました。」

セリクシニの言葉にステファーノはその人物が入って行ったという教会を見る

「協会から出た様子は?」

「この位置からは出た気配はありません。」

「中に潜伏しているのか…それとも出る機会を伺っているのか…。」
教会へ向けたステファーノの目が細められた

その刹那、ミランダは猛スピードでこちらに向かってくる複数の魔法を感じた

「何か来ます!!下がって!」

とっさに叫んだミランダは三人の前に立ち防御壁を造る
その直後何本もの炎の矢が防御壁に突き刺さった
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