月の大陸
とりあえず初陣終了です。
突然の攻撃に呆然と立ち尽くす三人をしり目に
ミランダは防御壁に突き刺さった矢を見た

普通なら防御壁に弾かれるはずなのに…
炎の矢はしっかりと透明な壁に突き刺さりその周囲には小さな亀裂が走っている
なんて魔力だ…
ミランダと同じくらいの魔力にそれを操るスキル…一体誰が?
葵はネタ張に書いた登場人物を思い出すが該当する人物はいない

どう言うことだろう?
新キャラ?これは相当手強いでしょ!
それにこの矢は…私を試しているみたいに感じる

反撃を試みたミランダは防御壁を三重に張り直し

右手の中に風を集めバレーボール位の球体を作り上げると矢が飛んできた方に向かって飛ばした

防御壁を出た風の玉は一気にピンポン玉位の大きさに分離し雷を纏う
そして、そのまま教会の中へ吸い込まれていった
次の瞬間
雷鳴と暴風が響き渡り教会の半分が吹き飛んだ

「あら?…やり過ぎたかも?」
予想と反し建物を壊してしまった事に少し焦りを感じながら
反応を待つ

すると急に魔力の気配が消えた

「…消えた?」

術者まで消えたの?…いや、教会人の気配は感じる
じゃあ…なんで?

ミランダが思考を巡らせていると
急に大きな魔法を感じた
しかも、正面の教会からではなく背後にある門の転移魔法陣からだ

「しまった!!」

相手の意図に気付いて慌てて動こうとした瞬間
魔法陣から火炎が放射された

「Difesa!!」
多少の魔力を持つセリクシニが魔法陣からの気配を感じて
ステファーノを庇うように立つと防御魔法を唱えた
ロザリンドもすぐに横で剣を構える

業火の如く放出された炎はミランダの防御壁の二重目まで到達し
さらに三重目一番内側の壁をも破ろうとしている

ミランダはすぐさま防御壁を強化し精霊を呼びだす

「水の精霊王、龍王。我が声に応えその姿を示せ。」

すると水の響きと共に群青色に輝く髪をなびかせた美しい青年が姿を現した

「息災か?」

どこか流暢な話し方の彼にミランダはすぐに要求を叩きつける

「あの火を止めて。」

「…なんと、アレは火の精霊王の技ではないか…。」

「そう。悔しいけど今の私にはアレを止めるは度余裕が無いの。
お願いできる?」

「承知した。」

龍王は巨大な水玉を造り出しその中に氷の粒手をしのばせた
そして、そのまま炎に向かって投げつける

次の瞬間
シュワ―と水分が蒸発していく音と共に炎が消えた
そしてミストサウナにいる様な熱気と湿度に覆われた防御壁内を冷気が鎮める
ステファーノとロザリンドは精霊が見えないためミランダの仕業かと思ったが
セリクシニにはしっかりと龍王の姿が見えた

龍王はセリクシニの視線に気が付くと
「ふん。」
とあざ笑うかのように鼻を鳴らしてミランダの隣に立った

セリクシニは精霊を見たのは初めてでその美しい姿に驚愕したが
魔力を持っていながら魔法同士の戦いでは役に立てず
彼女が必死の時に助ける事が出来ない自分が情けなく

当然のようにミランダの横に立ち彼女を守り、彼女の武器となる精霊に
セリクシニは苛立ちを感じ悔しさを噛みしめた

龍王が炎を相殺したのを確認してミランダは瞼を閉じ
教会の内部に意識を向ける
これは魔法の気配をたどり相手の様子を覗き見る事が出来る上位魔法だ
しかし、この魔法は己の精神を手放してしまう危険性があるため
禁術として定められている

炎の矢の残した魔法の残し…細い糸をゆっくりとたどっていくと
急に視界が変わった

そこは古びた教会の中
ローブに身を包んだ人間の後ろ姿が見える

誰だ…?女?

さらにその人間の事を知ろうと糸を手繰り寄せた瞬間
その人物がフードを取り振り返った

!!??

そこにいたのは
黒髪に黒い瞳、象牙色の肌に典型的な日本人顔
『菅原葵』だった

そして彼女はミランダに挨拶するかのように二コリと微笑んだ

その瞬間視界が炎に包まれ
ミランダはハッと瞼を開けた

清らかな気が全身をめぐり、炎によって汗ばんだ体を冷やしてくれる
見れば龍王がミランダの右手をしっかりと握っていた
覗きこむような彼の瞳には心配の色が溢れている

「しっかりしろ。」

「…。」

済んだ水の様に通る龍王の声にもミランダは答える事が出来ない
それくらいさっき見た光景は衝撃を与えていた

どうして…なんで私がいたの?!
私の本体もこの世界にいるの?
じゃあ、一体誰が私の中に入っているの?

…本物のミランダ・オ―グ?

様々な思考がミランダの…
葵の頭を飛び交い落ち着かない

「ミランダ、おい?どうした?」

ミランダの異変に気がついたステファーノ達は彼女に近づく
その時
ステファーノとセリクシニの背後に向かって飛んでくる光の矢が見えた

「危ない!!」

頭で考えたわけではなかった
そんな余裕も無かった
ただ、「この人たちを守らなければいけない」
そんな思いがミランダを突き動かしていた

「ミランダ!…おのれっ!!」

すぐにミランダを庇うように龍王が動こうとしたが
目の前に突然朱雀が現れ行動を遮る

ミランダが動揺したせいで防御壁が消えていたため
彼女は直接炎の矢に攻撃した

ミランダの放った水の矢が炎の矢とぶつかり水蒸気を上げながら相殺されて行く
矢が消えたのを確認してステファーノ達に視線を戻した瞬間だった

ドスンっ…!

右肩を貫く様な重い衝撃をミランダは感じた

「「ミランダ!!」」

「ミランダ殿!!」


龍王、ステファーノ、セリクシニの声が響く

え…?
…な…に…?

まるでスローモーション映像を見ているようだった
衝撃のあった肩を見ると一本の光る槍が背中から肩の付け根辺りを貫通していた
光の槍はフッと消えさり、同時に内側から焼かれる様な
猛烈な痛みが襲いかかってくる

そのまま視線を後ろに向けると魔獣の青毛の馬にまたがった人影が見えた
肩まである黒髪に黒い瞳
一番見知った顔が…人物がニヤリと薄い笑みを浮かべていた
そして、転移の魔法陣に飛び込んだ彼女は一瞬にして消え去った
しかし「これは始まりのあいさつよ。」
言い残された声がしっかりとミランダに…葵に届いた

すぐに龍王たちがミランダの傍に駆け寄る
ゆっくりと崩れ落ちるミランダをステファーノが抱きとめた

かろうじて意識を保つミランダだが彼らの問いに答える余裕はない
目は少しうつろで今にも瞼が閉じそうだ

「肩をやられたのか?!…私の気を送ろう。
すぐに倦族がそなたの弟子を連れてくる。それまでの辛抱だ。」

龍王がミランダに気を送り始めるのと同時にセリクシニが傷口に治癒魔法を施す

「おい、人間。少しでも手を抜いたら容赦せぬぞ。」

「ご心配なく。
そちらこそ、余計な事を考えて手元を狂わせでもしたら許しませんよ?」

「貴様、人間のくせに我にそのような事を申すか。
ククク…面白いヤツだ。
…だが…やはり気に入らんな。あとで覚えておれ。」

「口を動かす前に手を動かしたらどうですか?
気が散ります、話しかけないでください。」

龍王の冷たく居るような視線と声にも動じることなく
セリクシニはいつもの笑みで返した

「セリク、誰かいるのか?」

精霊が見えないステファーノが
セリクシニと龍王のやり取りを聞いて怪訝そうに尋ねる
セリクシニは龍王の事を話していいものか悩んだ
すると龍王はセリクシニの考えを呼んだのか「よい。」と小さく答えた

「ミランダ殿の精霊と話をしていました。
先ほどから私たちの戦いに力を貸してくれています。
いま精霊はミランダ殿に気を送っている状態です。」

「精霊?!
本当に…ここにいるのか?」

ステファーノは龍王の事をじろじろと見るが姿を捕えることはできない
反対に不躾に見られた龍王は不快感をあらわにした

しばらくしてプロスぺローが到着しミランダの治癒をセリクシニから受け継ぐと
ミランダは消えない言葉と思いを抱えたままゆっくり意識を手放した
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