オレンジ
そう言うなり彼はくくくっと笑いを漏らした。
電話で聴いたのと同じ笑い方だった。

「いや、いいんだ。知らないなら、ほんとに」

そのはにかんだような照れたような、ちょっとだけぎこちない笑顔は、好感が持てた。

「…ありがとうございました。拾ってもらって」
「いいえ。なんか、ほんとにごめんね。意地悪して」

言われて、電話のときの苛立ちが少し蘇ってきたけれど、すぐに消えた。
たしかに、ついさっきの電話では、なんて失礼な男なんだろうと腹を立てていたはずなのに。
今目の前で謝るその相手に、怒る気持ちはやっぱり湧いてこない。
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