オレンジ
なんだかさっきの電話とは随分と印象が違っていることに、あたしは戸惑う。

明らかにあたしよりも歳上なのに、電話でのぶっきらぼうなタメ口とは大違いの敬語。
そして、今あたしの目の前で、俯き加減で消え入りそうな声で話す彼からは、さっきの電話の相手に感じた意地悪さが微塵も感じられない。


「なんであたしがここにいるって…」

あたしが最後まで言う前に、彼が口を開
いた。


「…俺のこと、知らない?」
「…はい?」
「いや、知らないなら、いいけど」


どういう意味だろう。
知らない?と訊いてはいるけど、知ってるはずだ、というニュアンスが含まれていることくらいは、わかる。

改めて、記憶を辿ってみるけど、もともと男の子の知り合い自体数えるくらいしかいない。

同級生でもバイト仲間でも元彼でもないし、だとしたらー

「もしかして、同じ大学?とかですか」
「いや、大学は行ってない」

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