オレンジ

「やっぱり敬語、時々出るんだよな」
「…ごめん」

最近の彼女は、出逢った頃に比べれば随分俺に心を開いてくれるようになったと思う。

中学からの同級生が、初めての彼氏だったこと。
両親と、2つ上の兄貴との4人家族で、家族みんな仲がいいこと。
陽菜ちゃんという、とても仲がいい友達がいること。
料理が好きなこと、カラオケが好きなこと、野球観戦が好きなこと。

そんな、今の彼女を作り上げている様々なこまごましたことを、少しずつ話してくれるようになった。
以前なら俺から聞かない限り言わなかったようなことも、自分から話してくれるようになった。

けれど、やっぱりまだどこか少し他人行儀なことが、俺には引っかかる時がある。

「でも、ずっと今まで敬語で話してたから…急には」
「うん、まぁ、ちょっとずつでいいけどさ」

彼女が作ってくれた揚げ出し豆腐を食べ終わると、俺はソファの上に寝転がる。
彼女は、そのソファに寄りかかるかたちで、床に座っている。

「食べた後すぐ横になっちゃ良くないよ」
「んー…」

以前は俺の定位置だったその場所に、ずっと前からいたんじゃないかと思ってしまうくらい、自然に馴染んで座っている彼女を横目で眺める。
安物だけど、ムートンのカバーがかかっているこのソファにショコラは乗せないようにしていたから、必然的にショコラとじゃれている時はそこに座ることになるのだ。

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